館の秘密
「お前、本当にエロい格好だな…」
見合いパーティーの屋敷から出てしばらく歩いたところで、シンは腕の中のヒロインを見下ろした。
「そ、それは、さっきシンさんが…」
「こんな格好で宿に帰れないよな? それとも、この格好もみんなに見てもらうか?」
「そんな…」
シンは、ヒロインを抱いたまま、道から外れて茂みの中へ歩みをすすめる。
「シンさん?」
黙りこんだシンは、しばらく進んだ茂みの奥、枝下が空間になって開けている場所にヒロインを下ろした。
空間の隅に、布袋が置いてある。
袋の中からシンが取り出したのは、ヒロインの着替えと毛布。
「シンさん、いつの間に…」
「あらゆる事態を想定して備えておくのが、優秀な航海士だからな。さて…」
「え? え? え?」
のそり、と自分の襟元を緩めながらシンがヒロインに迫る。
明らかに、獲物を狙う妖しい眼差しに、引き裂かれたドレスを抱えたヒロインが慌てた。
「シンさん、その、ここ、外で…」
「それがどうした?」
「誰かが近くを通りかかったり…」
「だから何だ? お前、俺のモノのくせに、他の男が選んだ服を着て、喜びやがって」
「え、だってそれは……って、シンさん、それって嫉妬ですか?」
「あんなエロい、男を誘うドレスを散々他の奴らに見せびらかして、可愛いとか言われて喜んでいただろう」
「そりゃ、おしゃれして褒められれば…」
完全に組み敷かれた状態になったヒロインの顎に手をかけて、シンが囁く。
「あんなソソるお前を見せられて、しかも他の奴らの目に曝されているのを見て、俺がどれだけの理性を擦り減らしたと思う? もう限界だ」
強引に噛みつかれたキスが、ヒロインの舌を吸い、唾液までも啜り取ろうとする。
引き裂かれていたドレスは簡単に剥ぎ取られ、激しく求めるシンの手に、ヒロインの身体は激流へ堕される。
限界だと告げたシンの言葉は真実だったらしい。
珍しく言葉少なに、けれど貪るように、性急にヒロインを追い立ててゆく。
潤い始めた入口に硬く熱いものが擦り合わされ、粘液を塗り広げるように蠢く。
「あっ…シンさ…」
最初はゆっくり、窺うように忍び込んできた圧迫感は、一度奥まで収まると、容赦なく前後に揺れ始めた。
「シン…さ……まっ…まって……」
「そんな可愛い顔で言われて、待てるわけないだろう。ついてこい」
更に刺激のスピードが速まる。
「やっ…ムリ…ぃ……」
いつもは繊細な指先の動きが、荒く、痛みを伴うほどに強く、撫で、掴む。
やがて、シンが一際深く貫いて白濁を注ぎ込む。
もともとシンによって乱されていた髪が、更に乱れ、息を吸い込むような悲鳴をあげてヒロインが震えた。
「あの屋敷の主人は、かなりの好色らしいな」
乱れたヒロインの髪を、梳りながら、シンが説明を始める。
「サトルさん、最初に会ったときからそう言ってました。メグくんも、困ったお父さんだって…」
「好色というより、あれはもう異常だな…たぶん、あの屋敷には一度連れ込まれたら死ぬまで出れない部屋が少なくとも30はある」
屋敷の中で、シンは嬌声が鳴き続けている音をいくつも聞いた。
娼館のそれと違うのは、どの嬌声もひどく異常だった、ということだろう。
「あまり気分のいい光景じゃなかったな…。あいつら、たぶん、あれをどうにかしたいということだろう」
あんな屋敷に住んでいたら、カードゲームで一喜一憂して笑うヒロインなんかは、さぞ新鮮で癒される存在だったろう、と思う。
「どうにかするって……」
「盗賊でもなんでもいいから、侵入して全部壊して欲しい、ということだろうな。しかし、あいつらにそこまでする覚悟はない。結局、人頼みだ」
ヒロインが、ぽつりと言った。
「サトルさんは、女の子に洋服を見立てるのが趣味なんだそうです。見れば、だいたいのサイズが解るって言ってました。あと、メグくんは女の子に化粧をしてあげるのが好きなんだそうです。でも、二人とも、自分の好きだった子は、お父さんの愛人にされちゃった、って言ってました…」
「ほう? 俺が目を離した隙に、おまえ、あいつらとやけに仲良くなったみたいだな」
「仲良くって…一緒にトランプゲームしてただけですよ」
「おまえ、サトルみたいな奴がいいか?」
「シンさんが、いいです」
「俺の何がいいって?」
「優しいところです。宿に戻って、船長たちに話すんですよね?」
「………」
「船長が聞いたら、きっと、放っておきませんよね?」
シンが溜息をつく。
「不本意だが、あの屋敷には、値打のある骨董品もいくつかあったからな…まあ、話してみるが……」
ヒロインの髪を撫でたシンが、首筋に顔を埋める。
「シンさん?」
「宿に戻る前に、もう一度抱かせろ」
優しい指が、まだ素肌のままだったヒロインの背中を撫でた。
その後、ある貴族の屋敷が盗賊に襲われた。
数々の値打ちあるアンティークが盗まれたという。
しかし、人々が問題にしたのは、盗賊たちが壊した扉の向こうから見つかった、息も絶え絶えな愛人たちや、大量の愛人たちの死体。
醜聞は噂となって街中へ広がっていった。
噂の真相は、不明のままではあったが。
その貴族が開くパーティーの招待に応じる者が居なくなったのだけは、事実だった。
出港準備をしていたシンのもとへ、港の運び屋が荷物を届けに来た。
洋服店から届いたのは、オーダーメードの男女の正装一式。
どことなく、シンの好みを把握したデザインと採寸したかのようにぴったりなサイズに、シンは苦笑する。
『こんなの、ぜんぜんオレの趣味じゃないけどね』
添えられたシンプルなカード。
ふっと、一瞬笑ったけれど。
シンは不機嫌そうに、カードをポケットにしまいこんだ。
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