蜜花の宴
航海室で、ヒロインが持ってきた食事を見下ろして、シンはため息をついた。
「残すとナギが怒るからな…」
仕方ない、と、渋々、食事に手を付ける。
最初は、リュウガに面倒な航路選定を依頼されて、予定が狂い、少し気持ちが荒れていた。
ようやく終わってヒロインを見たら、ナギとソウシとトワに囲まれて、それはそれは幸せそうな笑顔をふりまいていて、かなりムッとした。
そんなときに、能天気に花を食べるようにすすめられて、おいしいからと念を押されて……差し出された手を、つい、振り払ってしまった。
我ながら、あれはマズかったとは思うものの、出遅れたせいで、ソウシに先を越されていて。
『ヒロインちゃんだって、怒っていいんだよ? 怒ったヒロインちゃんだって、可愛いよ』
『えと…可愛いとか思ってくれるのはソウシ先生くらいで…余計にシンさんに怒られそうなんですけど…』
『違うよ。どんなに怒っても可愛いままだから、シンが怒るんだよ』
あんな会話がされている中へ、どんな顔して割り込めと?
『ヒロインちゃんが可愛いすぎて、心配で、どうしたらいいか分からなくなっちゃうんだろうね。それをシンは、全部ヒロインちゃんのせいにして、怒っているんだよ? 怒る前にヒロインちゃんに言うべきことがあるはずなのにね』
あれは、来るな、と言われているに等しい。
『もし、ヒロインちゃんの言葉をシンがきちんと受け止めないようだったら、俺の部屋へおいで………そしたら、いろんなことを、教えてあげるね?』
返答の声が聞こえず、ヒロインの反応が判らなかった。
が、きっと、言われている意味もよく理解せずに、頷いたに違いない。
これでまたヒロインを責めたり怒ったりしたら、馬鹿なヒロインはうっかりソウシのところへ行ってしまったりするかもしれない。
行かない、という確証はない。
なぜならヒロインはおそらく、言葉の真意を判っていない。
ノックが四回。
「あの…デザート持ってきました」
ヒロインが後手に皿を隠して、航海室へ入ってくる。
「…………」
海図や器具を片付けて食事をしているシンを見て、ヒロインの表情が明るくなった。
「お仕事は終わったんですねっ」
嬉しそうに笑っている。
「…………」
「シンさんに、バカとか言っちゃってごめんなさい。…これ、どうしても、シンさんにも食べて欲しかったんです」
差し出された皿には、小さく白い蝶のような花。
「…………」
黙っているシンを覗いながらも、ヒロインは続ける。
「これ…よくお母さんがおやつに作ってくれたのと、同じなんです。だから、シンさんにも食べて欲しくて…」
「…………」
「シンさん? まだ怒ってます?」
「怒っていたのはお前だろう」
ようやく、シンが口を開いた。
「目にいっぱい涙をためて、人をバカ呼ばわりして、怒って去って行ったのは、俺じゃなくてお前だろう?」
「あ…はい…そうでした。すみません……」
ヒロインが皿を持ったまま、ペコリと頭をさげる。
「チッ…」
シンが舌打ちして、立ち上がる。
「シンさん?」
顔を上げたヒロインの背後から、シンの腕が伸びて身体を抱きすくめた。
耳元で囁く。
「そうやってお前がすぐに言うから、俺はお前に謝れなくなるんだろうが…」
「え?」
「ちゃんと、俺が謝るまで怒っていろ」
「そんな……無理です、シンさん」
ヒロインが振り返って、シンを見た。
「私、そんなにシンさんのこと怒っていられません。だって、シンさんですから」
「……なんだ、その理由は……」
ヒロインは、えへへ、と笑って、持っていた皿を左手で持ち、自分を抱きしめているシンの腕に空いた右手を手を重ねた。
「前も、言いませんでしたっけ? 意地悪されても、何されても、シンさんがいいんです。シンさんだから、いいんです」
出会った頃、人を憎むことはあっても、ずっと憎み続けることはできないようなことを言っていたヒロインが思い出されて、シンは苦笑した。
そういえば、ずっと憎み続けていた自分にとって、あまりにも違う考え方が、何故か気になって、魅かれたのではなかったか。
「まったく……」
眼の前にある、小さく白い蝶のような花をみて、シンが言った。
「…意地悪してもいいって言う奴に、意地悪しても面白くないだろうが」
「そうですか?」
手をのばして花を一つとり、ヒロインの口へ運ぶ。
「口移しで食わせろ」
「……」
ちょっと驚いたようなヒロインの唇が、素直にシンの指から花を受け取って振り仰ぐ。
シンが唇を重ねて、花を受け取り、離れた。
「…やっぱり、面白くないな……」
「そうですか? もっと食べます?」
「お前が皿になるなら、な」
シンの愉しそうな言葉に、ヒロインはきょとんとシンを見上げた。
「何されてもいいんだろ?」
「あ…あの…これは、すごく、その…恥ずかしいんですけど…」
「当たり前だ。お前が、恥ずかしがっていないと、面白くないだろう? 動くなよ?」
「それって、つまり、シンさん、ただ面白がっているだけってことですよね?」
ベッドに全裸で寝たヒロインの上に、シンが花を散らす。
「…悪くない眺めだな…」
からかうように言ったシンに、耳まで赤くしているヒロインが答えた。
「なんか、変態みたい……」
「うるさい皿だな」
ちょっと怒ったように言ったシンが、腹部の花を舐めとる。
「ひゃんっ…」
ヒロインの反応を黙殺して、シンは散らした花を舐めとっていく。
「ほのかに甘いんだな、ニセアカシアの花は…」
「シンさん、すごく意地悪ですね……」
ニヤリと笑ったシンが、ヒロインの腕に残っていた花を舐めとってキスをした。
舌先で、小さな花がヒロインの口腔へ送り込まれる。
「ちゃんとお前にも分けてやるよ」
「……いいです。だってナギさん、シンさんのデザートだって言ってました」
「ククク…お前、その格好で言ったら、どういう意味がわかってるか?」
「?」
「……どうせなら、もうちょっと色っぽい反応しろよ。お前、俺のデザートなんだろ?」
顔を覗き込んだシンが、深くキスをする。
舌先が歯列を優しく撫でて、ヒロインの舌をからめ捕る。
「ん…ふっ………」
「ゆっくり、味わって食ってやるよ」
言葉どおりに、唇の横や顎の線を撫で、首筋に舌を這わせて、シンの愛撫は、ゆっくりと下へ移動していく。
「あ……アゥ………あはっん………」
ようやくたどり着いた胸でも、撫でたり舌を這わせたり甘噛みしたりと、ヒロインを焦らしに焦らす。
焦らされて、内股を無意識に擦り合わせるヒロインに、シンが囁く。
「どうした? 足が濡れていないか? 見せてみろ」
「やぁ……」
膝を左右に広げて足の間に入り込んだシンが、舌先で奥の襞を舐める。
ビクリ、と反応したヒロインに、シンが嗤う。
「こんなところにも、花があったぞ。この花びら、モノ欲しそうに勝手に動いてる…」
「やっ……」
「ちょっと、触ってみるか?」
指先が、襞を撫でて中央の深みに入り込む。
「あっ…あふっ…」
入り込んだ指が、中で曲がって恥骨の裏側を撫で押す。
「はっ…はうぅぅっ」
今までに無いヒロインの嬌声に、シンが、ニヤリとする。
「そうか、ココ、そんなにいいのか」
「ちが…っ……」
差し込まれる指が二本に増え、責め始めた。
「あっ、あっ、あっ、やっ、やだっ、シンさ、んっ、やっ……」
ヒロインの手がシーツを強く握りしめて、背を逸らし、息を飲み込んで、痙攣する。
「指だけで、あっさりイッたな、エロい顔………ちょっと待ってろ」
シンは、目の隅に涙をためたヒロインにキスをしてベッドから離れ、服を脱いだ。
「シンさん……」
「なんだ?」
つながったまま、動かないシンをヒロインが見上げる。
「どうしたんですか?」
「あのままだと面白くないからな。お前が少し戻るまで待ってただけだ」
シンの分身が、ゆっくりとヒロインの中を撫で、思わず甘い吐息が漏れる。
「あのままって……」
「そろそろ、苛め甲斐が戻ったな?」
シンの指先が、胸の突起をつまんで、くるくると転がす。
「やっ…やぁ……」
「こんなに硬くして、すぐ、エロい声出して……困った奴」
愉しそうに、シンが言う。
「い、苛め甲斐って……」
「もう少し、愉しませろよ?」
苦情を言いかけたヒロインの口を塞いで、腰をゆっくり揺らす。
「んんっ、んっ…」
意識を手放しそうになると、シンはそっと離れて、また動きを止める。
そんな繰り返しで、快楽の生殺しの状態が何度も繰り返される。
「…ヒロイン…俺に何されても、ドクターの部屋なんか行くんじゃないぞ?」
ふと、離れたシンから至極、真面目な声が降ってきて、ヒロインはシンを見た。
面白がるような表情ではなくて、とても切なげに、愛おしげに、どこか心配気に、自分を見ているシンがいた。
「…わかりました…」
ヒロインの笑顔に、シンも笑ったような気がしたが、すぐに激しい刺激が訪れて、流される。
「愛してるよ…お前だけを…」
ヒロインが滅多に言ってもらえない言葉を囁かれたような気がした時には、ようやく与えられた絶頂に、何も考えられなくなっていた。
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