優しい調教師



ソウシが持ち帰った「燃える氷」を甲板で燃やし、燃え尽きるまで青い炎をうっとり眺めていたヒロインが部屋に戻ったのは、夜も遅くなってからだった。
「さすがに、寒いですね…」
 手を擦り合わせるヒロインに、本を読んでいたシンが言う。
「温めてやるか?」
「え?」
「冷えた身体には、人肌の温度が一番いいぞ」
「いえ…え、遠慮します」
 答えてから、ヒロインはシンの様子を覗う。
 シンは本を読んでいて、動く気配はない。
 なんとなく、ほっとしたような、残念なような…複雑な気分で毛布に包まろうとすると、シンがパタン、と本を閉じた。
「なかなか面白かったな…実践してみるか」
 シンが、半分毛布に潜り込んだヒロインを見下ろす。
「おい、ヒロイン」
「なんでしょう? シンさん」
 見るからに、何か企んでいそうなシンに、ヒロインがなんとなく身構えた。
「今、動物調教師の本を読んだのだが、な」
「はい……」
「調教師になるには、何よりもそいつのことが好きで思い入れがないと、務まらないらしい」
「はあ……」
「そいつとできるだけ日常を共に過ごし、根気よく訓練を繰り返すことが重要だそうだ」
「…なるほど…」
「そして、日々の訓練の成果が出た時の動物の姿は、調教師にとって、大きな感動を生むらしい」
「…で、それが…」
 語りながらゆっくり近づいてきたシンが、ニヤニヤと笑ってヒロインの顔を覗き込んだ。
「体験してみないか?」
「……何をですか?」
「調教される気分を…」
 シンがヒロインの顎を持ってキスをする。
「条件は全て当てはまっているぞ…。俺はお前が好きだし、思い入れもある。日常も共に過ごしているし、お前相手なら、根気よく繰り返すのも苦痛じゃない」
「だ、だって…今まで、シンさん私に数学とか、いろいろ厳しく教えてくださっているじゃないですか。それって、それって…えと、調教の一種ですよね。ご褒美とかあるし…だから、もう十分私はそーいう気分をですね…えっと…」
 大慌てでうろたえ始めたヒロインを見下ろしたシンが、笑いはじめる。
「シンさん?」
「馬鹿。冗談だ」
 冗談だといわれても、途中まではその気だった、とヒロインはシンを見る。
 そんなヒロインに、シンは優しくキスして頭を撫でる。
「船長じゃないが、雪かきしてたお前、本当に曲芸してる小熊だったからな…」
 言っていて、ヒロインの姿を思い出したらしい。シンはククッと喉の奥で笑う。
「もうー。一生懸命やったのに…」
「だから御褒美だ」
「え?」
 シンが毛布の上からヒロインに圧し掛かる。
「寒いからな。毛布の中にもぐって、というのも面白いぞ」
 囁いたシンが、上着を脱いでヒロインの足もとから毛布の中に潜り込んだ。
「ちょ…シンさ…やだ、くすぐったいっ」
ごそごそごそごそ…
 毛布の中でヒロインを擽るシンの指先が、衣服の隙間を見つけて潜り込む。
「やんっ……」
 ヒロインは服を脱がされても、毛布に包まれているせいか、いつものような羞恥心も無く……されるがままに足を開いてしまう。
「随分と素直だな」
 胸元から顔を覗かせたシンに、ヒロインの手が伸びて抱きしめる。
「シンさん、すごく温かいの……」
「おいっ…」
 十分に身体が温まったらしいヒロインが、うっとりとするような表情で、目を閉じる。
「こらっ…」
「んー…」
 雪かきの疲れか、冒険の疲れか、幸せそうな顔で眠りに落ちてしまったヒロインの上で、シンが溜息をついた。
「お前、これからなのに、どうしてくれる?」
「えへへ…」
 微妙な眠りの狭間にいるヒロインが微笑む。
「夢の中で、続きをするか?」
「………」
 リズムが整っていく寝息。
「一度火が付いたらなかなか消えないのは、俺も同じだぞ。まったく……朝、もう一度温めてやる。覚悟しとけよ」
 苦笑したシンは、幸せそうに眠るヒロインに宣言して目を閉じた。

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