零れた復讐



ソウシがこぼしたというアルコールを片付けたせいで、すっかり酔って寝入ってしまったヒロインを抱いて、シンは甲板を歩いた。
 ふと、船室の入口で立ち止まって考え込む。
「ドクター、居ますか?」
 シンはヒロインを抱えたまま、医務室に向かった。
「あれ? シン、どうしたの?」
 医務室の中はヒロインと同じ香りがしていた。
 抱きかかえてきたヒロインをベッドに置いて、シンはソウシに向き直る。
「ドクター、どうやったら、コイツ起きますか?」
 気持ち良さそうに眠るヒロインを指さして、シンは笑ってソウシに尋ねた。
「どうやったらって…お酒で酔っ払っているのと同じ状態だから、酔いが醒めればいいかな。でも、もう夜も遅いから、朝になれば…」
 ソウシの言葉に、シンは腕を組み、ヒロインを見下ろして言う。
「ドクター、水もらえますか?」
「え? シン、ヒロインちゃんにかけるとかダメだよ? 意味ないからね?」
「まさか。かけませんよ。体内のアルコールを早く分解するには、水が必要ですよね? 体内のアルコールは加水分解でホルムアムデヒドに変化し、更に無害な酢酸に変 化するはずですから、試しにコイツに、水を飲ませてみます」
「ああ、なるほどね」
 コップに汲んだ水をシンに渡したソウシが、……シンの予想外の行動に手を止めた。
 シンは受け取った水をそのまま自分の口に含み、眠っているヒロインに口づけて流し込む。
「おい、ヒロイン、起きろ」
 最初の水は、その大半がヒロインの口から溢れて、シーツを濡らした。
「寝たままじゃ無理か。ドクター、ヒロインを支えててください」
 ソウシが苦笑して、シンに促されるままに起こしたヒロインの身体を支える。
 今度は、コップを口許で傾ければいいだろうに、シンはやっぱり口に含んだ水を直接ヒロインに流し込んだ。
 複雑な表情で、ソウシが見守る。
 ヒロインの喉が、こくん、こくんとシンに与えられた水を飲み込む。
「んーーー」
 ぽぅ、とした状態のヒロインが、うっすら目を開けてシンを見た。
「あー、シンさん~~」
 嬉しそうに笑って、目の前のシンの首へ腕をからませるのは、まだヒロインがアルコールの影響下にある証拠で。
 ヒロインが楽しそうにシンへ身を寄せるのは、後ろで支えているソウシの存在を全く意識していない証拠で。
「水、飲むか?」
 シンが優しく問えば、飲みますぅ…と甘えるヒロインは、ここが医務室であることも理解していない。
「飲ませてやる」
 水を口に含んだシンに、ねだるように応じてキスを求めるヒロインは、魅惑的で。
「シンさん、もっとぉ…」
「しょうがないな」
 甘い声でねだられて、シンは優しく何度も口移しでヒロインに水を飲ませる。
「少しは、目が覚めたか?」
「シンさん、大好き~っ」
「おいっ…」
 シンの胸に頬を寄せてすりすりと身を寄せて、ふと、見上げたヒロインは拗ねたように言う。
「シンさん…どうして服着ちゃっているんですかぁ?」
「お前も着てるだろ?」
「あ、そうか。服、脱ぎますねぇ…」
 ヒロインはおもむろに、衣服のボタンに手をかける。
「あれ? あれ? シンさん、とれません…脱がしてくださぁい」
「わかったから、ちょっと待て」
 シンは苦笑して、ヒロインにキスする。
「ん…あふ……っん……」
 甘い吐息でシンのキスを追うヒロインは煽情的で。
「続きは、ちょっとだけ、おあずけだ。大人しく待ってろ」
「……はい…」
 ヒロインを抱きかかえて、シンが立ち上がった。
 抱きかかえられたヒロインは、シンだけを見つめていて、ソウシが居ることに気づきもしない。
「起きたようなので、ドクター、失礼します」
 シンがヒロインを連れて医務室を去った。
 ソウシは苦虫を噛み潰してしまったような表情で、空になったコップを手に取る。
「仕返しされたかな……まさか、こんな手で来るとはね…」
 腹立たしげに落としたコップは、乾いた音を立てて床に散乱した。

「酔ってるお前は、本当に素直で面白いな」
 部屋に戻ったシンは、大人しく服を脱がされているヒロインに言った。
「シンさん…」
 少し、眠そうに目をこするヒロインは、今、自分が誰に何を見せつけてきたのかも知らない。
「ククッ……ごほうびをやるよ。お前、俺の予想以上に最高だったからな」
 機嫌の良く笑うシンは、ヒロインをベッドに沈めた。
「あっ…あん……あぁんっ」
 優しく抱きしめながら、シンが囁く。
「お前は俺のものだからな。他の男なんか意識するなよ…」
「はい…シンさん……」
 答えたヒロインは、言われたことがどんな意味なのか考える暇もなく、シンに乱された。 
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