高熱の幻



身体が重い。
 何か声が聞こえるが、言葉が流れていくだけで、何を言っているのか分からない。
 ふと、冷たく心地よい刺激が降ってくる。
 遠い昔、居なくなってしまったはずの影が見えた気がした。
 呼ぶのに、声が出ない。
 意識が何かに沈んでいく。


 ヒロインとソウシの囁き声が聞こえる。
  「大丈夫だよ。………まで……で来て、あとは………頼ん………からね。……脱出す………無理……頑張った……よ。こんなになったの………」
「あっ、…………、いま……ちょ…」
「心配ないよ………。それより……」
 ソウシがくすくすと笑ってヒロインを捕えていた。
「よく…てる…。…黙って……くれれば、……かわいいんだけどね」
「ソウシ……っ?」
 服を脱がされたヒロインが驚いている。ソウシが笑っている。
「なんて…。やっぱり、女の………ヒロインちゃん………ずっとかわいいよ」
「いえ………………なくて……。でも、私も………惚れることあります。………綺麗な………」
 ソウシがくすくすと笑いながら、裸のヒロインを愛撫している。
「シンが聞いたら、すごく怒りそうだね」
「そうですね…」
 聞こえているどころではない。目の前で繰り広げられる信じられない光景に、シンは動けない。
「…入るぞ。……どうだ?」
 いつのまにか、ナギまで加わっている。いきなり挿入したらしく、ヒロインが驚いている。
「ナギさんっ」
「なんだ。………か?」
 ヒロインを背後から抱き寄せたナギが、何か囁いてヒロインを刺激している。
「ああ。………飲ませようと思うんだけど、なかなかうまくいかないね」
 いつの間にかソウシがヒロインの口を犯していた。
「ほら」
 ナギがヒロインを後ろから貫いている。
「おまえ……ちゃんと……け。どうせ、寝ない……するつもりだろ?」
「はい…」
 ナギに答えたヒロインが「んぐんぐ」と切なげに頬張っている。
「飲むか?」
 ヒロインの後ろで責めているナギが、ソウシに囁いて笑う。
「うん、いいね」
 ソウシがヒロインの口に含ませたまま、満足げに答えている。
「っ……ナギさん………熱い……」
 シンの身体のほうが熱い。
 重い。
 動かない。
 声が出ない。
 オマエラ、フザケルナ、と言おうとした瞬間だった。
 
「あぁ、ヒロインちゃん、さっきまで氷水触っていたからだよ」
「…あぁ、そっか。…ナギさん、すいません……」
 一気に、シンの視界が転換した。

 ヒロインの横顔。
 ナギの後姿。
 ソウシの横顔。
 医務室の中。
 相変わらず熱く重い自分の身体。 
 濡れたタオル。

「「「……?」」」
 三人が、シンを見た。
「あ、シンさん、起きました?」
「………」
 ヒロインの笑顔に、自分が夢を、それもとんでもない悪夢をみていたのだと、理解する。
 確かに、あんなことが起きるはずがない。
 はずがない、とは思うけれど。
 シンが重い腕をつぃ、と伸ばして、ヒロインの襟元を掴み、引き寄せた。
 触れて、こちらが現実であることを確かめたい。
「シンさん?」
 引き寄せられても、きょとんとしているヒロインは、本物に違いない。
「お前ら……うるさいっ」
 声に出して言ったつもりが、かすれた囁き声にしかならない。
「あ、すみませ…っ」
 すぐに離れてしまいそうなヒロインを追って、キスをする。
 これは俺のもの…。
 けれど、身体がやたら重くて、わずかな時間でベッドに引き戻されてしまう。
 ヒロインが真っ赤になって、動揺した勢いで、氷水を床にひっくり返した。
「きゃっ、わわわっ。あっ、す、すみませんっっ!」
 ナギが舌打ちして、床を拭く雑巾を取りに医務室を出ていく。
 ソウシが、笑いだす。
 騒がしくなった室内。
 こちらが現実。
 先ほどの許し難い光景が、幻。
 …夢で、よかった。
 心から安堵して、シンはため息をついた。


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