罪の記憶
宴の片づけが終わって部屋に戻ったヒロインは、ベッドに寝転がったシンに唐突に言われた。
「おい、ヒロイン。海賊がお尋ね者だって、本当にわかってるのか?」
「あ、はい。わかってますけど…」
言葉ではわかっていても、あまり実感はない。
確かに、軍隊に追われる体験もしたのだけれど、毎日会って話す仲間たちが、そしてシンが、指名手配されるほどの悪人だとは思えない。
「お前には、自覚が足りない」
「はい?」
「いいから、こっちへ来い」
ベッドに近づくと、すっと伸ばされたシンの手が、ヒロインの衿ぐりを掴んで…思ったより強引に引き寄せられた。
噛みつくようなキス。
シンの吐息は、アルコールの匂いがする。
「シンさん、もしかして、酔ってます?」
「お前が、馬鹿な話をしたからだ」
強い力でベッドに引き込まれ、気づけばヒロインはシンに組み敷かれていた。
「シンさん?」
酒に強いシンが、今までヒロインに、酔っぱらっていると判る姿を見せたことはない。
でも今、ヒロインを見下ろしているシンは、いつもと違っていた。
シンの瞳が、何か底知れない光を映している。
「お前の目の前にいるのは、海賊なんだよ」
シンが言葉を発する度に、強いアルコールの匂いが広がった。
「ちょっ……シンさんっ」
のしかかられた身体が、身動きできないほどに重い。
「賞金首の海賊は、捕まったら死罪だぞ」
「…はい。わかってます」
「俺と一緒にいるお前も、捕まったら殺されるぞ」
「それも、わかってます」
「何故、その証拠を見たがる?」
「え?」
考える暇もなく、強引なキスがヒロインに降ってきた。
「んっ……」
シンの舌は、ヒロインの中に入り込んで、なかなか出ていかない。
苦しさに、呼吸が乱されていく。
「んんっ」
長いキスの途中で、シンが強引にヒロインの衣服を開いた。
破れはしなかったが、ボタンが床に転がる音がする。
「んんっ…んんんっ」
組み敷かれているヒロインは、意地悪な苦しいキスから逃れることもできない。
「っ……はあ、はあ、はあ、はあ。シンさっ……ん…」
ようやくキスから解放されて肩で呼吸していると、シンの手が、ヒロインの口を封じた。
容赦のない愛撫がヒロインの身体を襲う。
「んんっ……」
シンの片手のひらで口を塞がれ、名を呼ぶことも話すこともできない。
でも、まるで自分をおもちゃのように扱うシンは、なんだか辛そうな表情をしていると感じる。
その違和感が、快楽からヒロインを引き留めていた。
どことなく熱を帯びないヒロインの反応に、シンの手が止まる。
「ヒロイン?」
訝しげに名を呼んで視線を合わせたシンの力が緩み、ヒロインは押さえつけられていた腕から逃れて身を起こした。
「私、後悔しませんよ。海賊になったことや、シンさんを好きになったこと」
シンが驚いたようにヒロインを見る。
ようやく、きちんとシンと目が合ったような気がした。
「ものすごく強い賞金稼ぎさんがやって来て、殺されちゃうことになったとしても、軍に捕まって、殺されることになったとしても、後悔しませんよ」
その言葉で、何か目覚めたような様子のシンが吹き出した。
「賞金稼ぎごときに『さん』をつける奴があるか」
「そうですか? でも私、一度も賞金稼ぎの方に会ったことないですし。これからも、しばらくは会えそうもないみたいですから…」
「確かにな。名だたる賞金稼ぎは、ほとんど海の藻屑にしちまったからな」
シンが、優しくヒロインの頭を撫でた。
「まったく…なんで俺が欲しい言葉が解るんだか…」
「?」
「ちょっと待ってろ」
シンはベッドから降りて、荷物入れをごそごそとしていたが、
「ほら、お前が見たかったのはこれだろ?」
茶色い染みのついている、折りたたまれた紙を差し出した。
広げると、WANTEDの文字に、眼帯をした冷たい表情の似顔絵。
シリウス海賊団の血も涙もない冷血な航海士、シン。
懸賞金は金貨で一千二百万枚。
生死を問わず。
「だって、シンさん、『そんなもの、大事に持ってる海賊がいるわけない』って…」
「たまたま、だ。……親父に会った時に、突きつけてやろうと思って、一枚だけとっておいた。その染みは、殺した賞金稼ぎの血だよ。見せつけてやるつもりだったん
だ……もう、必要なくなったけどな」
ヒロインの手からひょい、と取り上げた紙に、シンが火をつけた。
「あぁっ!」
残念そうなヒロインを見下ろして、不敵に笑う。
「お前が初めて見た指名手配書は、オレってわけだな」
「もっと見たかったのに…」
「俺が持ってたなんて、他の奴に言うなよ」
「わかってます。言いません。…でも、もう少し見せてくれたって…」
ヒロインが拗ねてシンを見上げた。
「お前、その格好……誘ってるだろ」
気づけば、服を乱し、胸を露わにしたまま、ベッドに手をついてシンを見上げている自分がいる。
「えっ? だって、これは、さっき、シンさんが……」
慌てて服を整えようとした腕が、優しく囚われた。
優しいキス。
「……俺が、守ってやる。お前を賞金稼ぎや役人なんかに殺させない」
「はい。信じてます」
シンの与える甘い刺激に、ヒロインは逆らうことなく流され乱れていった。
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