居待月


座って月を待つ夜。
人々は、居待月と呼んだ月の夜。

 今を生きる人々が、過去の月明かりを見ることはできない。
しかし、今輝いている月は、過去の人々を照らし出し、眺めていた。
人々と月と、同じ時にありながら、こんなにも異なっているのは、なぜだろうか。

そんな当たり前のことを詠んだ詩人が、かつて居た。
月を眺めながら酒を飲むのが好きな、好々爺だった。
「夜見、面白そうな酒があるんだ。中国酒なんだけど、いいよな?」
真樹が手にしていたのは、白磁の酒瓶。
さて、どうしたものか。
「なんという酒だ?」
「青竹白酒…って書いてあるけど、駄目か?」
白酒は、強い酒が多い。強い酒は、強い力にもなるが…。青竹の力まで含まれているなら……。
「今夜、弓月夜見の力が強くなってもよければ」
真樹が月を見上げた。
月に左右される弓月夜見の機嫌。
今夜は凶月ではないが、吉月でもない。
「……よし、これは、俺が斎主になるまで、とっておくことにしよう。今の俺じゃ、まだまだ…だろ?」
「そうだな」
確かに、弓月夜見の相手を真樹一人でするには、まだ経験不足だ。
「ところで、その酒、どうやって手に入れた?」
少なくとも、その辺の店では売っていないはずだ。
まして、真樹の小遣いで買えるものではなさそうだ。
「夜見が眠っている間に、参拝に来た爺さんが、俺にコレを渡して、月神様にどうぞ、とか言ってたけど、知り合い…じゃないよな」
「さぁ……」
心当たりがないこともない。
真樹には、一緒にもらった酒を飲めるようになったら、話そう。
僕は、久しぶりに好々爺の声を思い出して、微笑した。



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