臥待月


人々が眠る頃になってようやく天空に姿を現す月。
恋人が月明かりを頼りに訪れるのを、臥して待つ夜。
月の出。
目覚めたばかりの僕。
…誰もいない? 辺りを見渡す。
母屋の一室で、信志と真樹は先ほどからテレビ画面に魅入られているのが、判った。
珍しい。二人して時を忘れるとは。
 僕は、静かに二人の背後の戸口に立つ。
「……。おい、グレるぞ」
 僕の拗ねた声。
 二人が突然冷水を浴びたような驚きを込めて、振り向いた。
「もうそんな時間だったのか。すまない、夜見、これには…その…」
「えっ? あ、ご、ごめん、夜見っ。すぐに供物、あ、これから作って、持ってくるっ、からっ…」
二人同時に動揺する姿を見て、テレビ画面に対するささやかな嫉妬心は、消えていく。
 我ながら、あさましい。
「僕で良かったな。弓月夜見だったら、きっとそのテレビは壊されているぞ」
供物を取りに行こうとした真樹の腕を引き止め、テレビ画面を見る。
映画でも見ているのかと思ったら、違ったようだ。
「ちょっ、夜見、これから供物……」
「あとでいい。遺跡発掘のドキュメンタリーか……。面白そうじゃないか、僕も見よう」
信志と真樹の間に座る。
僕は座っていても月が見えるようになる刻限まで、映像に魅せられていた。



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