星会月


天空の太陽が通る道を黄道と呼ぶ。
同様に、月の通る道には白道という呼び名がある。
黄道の星は、西洋の文化に伴ってこの国にも伝わり、ずいぶん有名だ。
しかし、白道の星を知る人は少ない。
月が星を隠す現象を星食、掩蔽と呼ぶことすら、知らない人が多い。
この国において、月と星は、陰の存在。
「夜見、その綺麗なアクセサリー、何?」
真樹が、僕の胸元に輝く光を指差して、不思議そうに目を眇めた。
「ああ、さっき月が飲み込んだ星だ。明るい星だったから、僕も少し影響を受けたんだよ。アクセサリー…にしては、少し明るすぎる……だろう?」
「神秘的で、女の子にウケるだろうね…」
そう呟いて、思い悩むようにため息を吐いた真樹の姿に、一つの情報が思い浮かぶ。
「なんだ、真樹。まだ、彼女へ贈る誕生日プレゼント用意してなかったのか?」
横目でちょっと睨むような視線。図星のようだ。
「明日だったと記憶しているが間に合うのか?」
深いため息。
「そんなこといってもなー。……夜見ぃ。……どんなもの贈ればいいと思う? やっぱり、アクセサリーとかの方が、喜ぶよなぁ。でも、予算が…」
どんなもの贈ればいいかと僕に聞きながら、真樹は既に、アクセサリーを贈ると決めているようだ。
微笑ましい。
「 まあ、そうやって悩むのも、恋愛の醍醐味だ。今のうちに、楽しんでおくといい。ただ、アツイヨルを贈る時には覚悟しておけよ」
「それは、もう言われなくてもわかってるって……」
僕の言葉に、苦笑して答えた真樹。
……すべての原因は、僕。
真樹を次期斎主に選んだ僕が、彼の自由を奪っている。
わかりきっていること。
それでも、時折どうしようもない感傷を覚えるときがある。
「すまないな…」
僕の呟きは、月明かりにかき消された星のように、夜空へ溶け込んでいった。



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