小満



右舷に大地が見えている。
切り立った崖のような海岸線が続くこの島は、大地の近くでも水深が深い。
喫水が深い我でも、島の海岸線間近を難なく航行できる。
我は海賊達が乗る帆船の精霊、シリウス。
「わぁ、一面、光っていますね、奇麗っ」
ヒロインの言葉通り、崖の上の平らな大地は、水が張られて太陽の光を反射し、大地が輝いているように見えた。
「ああ、灌漑水田か…このあたりの主食はコメだからな」
珍しくもなさそうに、シンが舵をとりながら答える。
水田の輝きに目を奪われているヒロインは、そんなシンを振り返ることなく、言葉を続けた。
「ヤマトの主食も、お米ですよ。…でも、まだ田植えとかしないのかな…何か蒔いている人はいるけど…肥料でしょうか?」
水が張られた中に立って、確かに何か投げ蒔く人影がいくつかあった。
「だから、種を蒔いているんだろう?」
何を馬鹿なことを、とでも言いたげなシンの言葉。
「え? 種って? 何のですか?」
きょとんとしたヒロインが、ようやく舵輪を握るシンを振り返る。
たったそれだけで、少しだけ、シンの不機嫌な気配が和らぎ、我は笑みを浮かべた。
「何って、米の種だろう。種籾、と呼んだか?」
シンの口元に、自然と笑みが浮かぶ。
「ええーっ。だって、田植えしないんですか?」
なぜか、ヒロインが随分と驚いているようだ。
「ああ、苗代で育ててから水田に移植するヤマトの農法か? どちらかといえば、そっちが珍しい方法だな」
「珍しいって、ヤマトでは、お米は昔からそうやって…八十八の手間をかけて育てるものだって…」
『八十八の手間? それはまた手間のかかる主食なんだな…』
二人には届かぬ我の呟き。
「この辺りは、気候がいいからな。わざわざ苗を育てなくても、ああして種籾を蒔けば、自然と発芽して育ち、秋には一面金色の稲穂だ」
「ええーっ。そうなんですか!?」
ヒロインが、再び崖の上に広がる広大で平らな大地を眺め見る。
風が大地の水面を撫で、反射している光が海面のように揺らいでいる。
「田植え…しなくても、お米ができるんだ……」
突然、ぐぅぅぅ、と鳴った音を聞いたシンが、吹き出す。
「食い意地の張った奴だな」
「ち、違いますっ。炊き立てのまっ白いごはんを想像したら、お腹が鳴っちゃっただけでっ…」
真っ赤になったヒロインが、慌てて弁明するのを、シンは愉しげにからかう。
『厨房でナギが昼食の準備を始めたな…』
我は意識を厨房へ向けた。
『それが、八十八の手間をかけてあるとはな…』
偶然にも米を取り出し、とぐ…と言ったか、何度も水で洗っているナギ。
シンに散々からかわれたヒロインが、ナギの手伝いをすると言って厨房に向かっている。
ナギが米を用意しているのを見て、ヒロインはどんな反応をするのだろうか。
我は、じっとヒロインが厨房に辿り着くのを見守りながら、大地に沿って海を進んだ。


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