白日月


眩しい日の光の中で、空を見上げた。
東の空に、青空に消されてしまいそうな、薄白い欠けた月。
空が闇に染まる頃には、きっと天頂にたどりついて、その光をなげかけるだろう。
まだ真樹は学校へ行っている時間。
「今日はいい天気だ。酒を買いに行かないか?」
信志が、僕の隣に立って言った。信志の視線は、僕と同じ空の月。
「酒か…行くとしよう。姿を消そうか? 何かとやりにくかろう?」
神は、一部のものにしか見えない。けれど、必要に応じて、万人に認識できるような姿も可能だ。その逆も然り。斎主は、例外として。
「そのままでいいさ。どっちでも、同じだからな。それに、何も無い空間に話し掛ける怪しい人物には、なりたくない」
 境内を出て、昼の景色を楽しみながら、酒屋へ。
日々の供物に欠かせない神酒。祓い清める前は、普通の酒なのだ。
数ヶ月振りの店内に並んだ酒は、今まで見たことも無いようなものも含まれていた。
「そこのにごり酒がいい。懐かしい香りがする」
「……夜見…。予算は……」
信志が、僕の示すものを見つけて、困ったような顔をした。その反応がおかしくて、僕はつい、笑ってしまう。
声を殺して笑う僕を、店員が訝しげに見た。
「夜見……。注目されているが……」
「わかっている。だが、あれ一瓶なら、買えるだろう? そうたくさん買いこむこともない」
僕が選んだのは、信志が持ってきた金額でようやく一瓶買えるという品。
「これじゃ、一ヶ月持たない……」
不満を述べる信志は、それでも僕の選んだ酒を手にとって、レジへ向かった。


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