有明月


「ほう、朝日の作り出した虹か…」
月はまだ天空に輝いていた。
夜明けの光が、雲の多い空に虹の橋を架ける。
夜遅くから降り出した雨は、かなり小降りになっていた。
「あ、おはよう、夜見。なんだよ、今日は雨かよ…」
ぼやきながら空を見上げた真樹の視界にも、虹は映ったようだ。
「うわっ、すっげー。動いてるっ」
風のせいだろうか、射し込む朝日のせいだろうか。
架かりつつある虹の橋は、一進一退を繰り返しながら、半円を彩ってゆく。
有明の月を飲みこんでゆく七色の光。
僕のまわりを、異質なものが取り囲んでゆく。
「あれ? 夜見?」
真樹が眩しげに僕を見つめた。真樹の言葉にならなかった疑問に答える。
「太陽の力だね。ここから見た月が、虹に飲まれてしまったから、僕も太陽の力を少し纏ったようだ。虹が出ているわずかな時間だけの現象だよ。そう滅多にあることじゃない。真樹は運がいいな」
 本当に、こんな現象は、稀だ。
「運…ね。とりあえず、親父も呼んでやるか。珍しいことなんだろ?」
「そうだな。今なら、信志にも僕の姿が見えるかもしれないな」
 ただし、太陽の力はすべての姿を照らしてしまう光。斎主となってしまった信志の目に、僕はどんな姿で映るのだろう。
「そういうことは、早く言えよ。おいっ、親父―っ」
 真樹が、母屋の中へ走っていく。信志はおそらく、眠りについて半時。一番深い眠りの状態だろう。
 斎主は夜明けのしばらく前まで、僕の隣にいたのだから。
「さて、間に合うかどうか……」
信志が来る前に、虹が消えて欲しいような気もする。
 僕は色彩に飲みこまれた薄蒼い月を見上げた。



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