WTO、貿易紛争で「国家安全保障」言及容認 米に諸刃の剣

2019年04月06日(土)05時21分

newsweek

[ジュネーブ 5日 ロイター] - 世界貿易機関(WTO)パネルは5日、ウクライナの輸送を巡る対立で、ロシアが「国家安全保障」に触れる権利を認めた。

貿易問題では、トランプ米大統領が安全保障を理由を各国への自動車追加関税の是非を判断する見通しとなっており、WTOの判断は支援材料となる可能性がある。一方でパネルは、国家安全保障の主張を見直すWTOの権利を確認、国家安全保障は見直し対象でないとする米国の立場に打撃を与えた。WTOの判断は総じて、トランプ氏には諸刃の剣となったようだ。

世界貿易ルールで国家安全保障に基づく適用除外権を巡って、WTOパネルが判断を示したのは今回が初めてとなった。

パネルは、国家安全保障の主張を見直すWTOの権利も確認。兵器や紛争、核分裂性物質、「国際関係の非常事態」に関連して、こうした主張は「客観的に」正しいことが重要と指摘した。

ウクライナは2016年、ロシアのプーチン大統領がベラルーシ経由でなければウクライナからの道路・鉄道輸送を禁じるとしたことで、アジアなどとの取引が大きく減少したとWTOに訴え出ていた。

ロシア経済省は、ウクライナの主張が事実無根と認められたとの認識を示した。



WTOパネルがロシアによる貿易制限措置を容認、「安全保障例外」条項を初めて適用

(ロシア、ウクライナ、WTO)

欧州ロシアCIS課

2019年04月09日

WTO紛争処理小委員会(パネル、注1)は4月5日、ロシアが2016年以降にウクライナ製品が自国領を通過するに当たって課しているトランジット(通過運送)制限措置に関して、GATT(注2)21条「安全保障のための例外」に照らし、制限が妥当と判断した。WTOにおいて、GATT21条が適用されたのは初めて。

本紛争は、ロシアとウクライナで争っているもの。紛争の元となった制限措置は、2016年1月1日付ロシア大統領令第1号および連邦政府決定第1号(2016年1月1日付)。本措置は、ウクライナとEUとの間の自由貿易協定(FTA)発効)への対処を目的としたもので、ウクライナからロシア領内を通過してカザフスタン、キルギスへ、自動車もしくは鉄道によるトランジット輸送を行う際、ベラルーシを経由し、かつ、グロナス(注3)技術を搭載した自動車・鉄道による封印識別した場合のみ許可されるという内容のもの。その後、モンゴル、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン向けのウクライナ製品のトランジット輸送にも、本ルールが適用されている。

本措置について、ウクライナはWTOに対し、ロシアがトランジット自由原則に違反し、かつ、WTO加盟協定書に記載されている義務も不履行で、これによってウクライナ製品の中央アジア、中東、コーカサス諸国への輸出が3分の1に減少したと訴え、2016年9月にパネル設置を要請した。これに対し、ロシアはGATT21条に該当する安全保障上の不可欠な措置だと反論していた。

WTOは2017年3月にパネルを設置し、ウクライナの主張を審議した結果、ロシアがとった措置は、緊急状況にある国際関係下における安全保障上の利益保護に不可欠で、GATT第21条(b)(iii)「戦時その他の国際関係の緊急時にとる措置」およびロシアのWTO加盟議定書に合致するとの結論を出し、主張を退けた。今後は当事者のどちらか一方が上級委員会へ控訴しない場合、WTO紛争解決機関の採択後に発効する。

ロシア経済発展省は、WTOはこれまでGATT第21条について解釈を行ってこなかったため、今回の紛争は非常に大きな意義を持つとコメント。同相のマクシム・オレシキン氏は「現在、米国政府は鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税賦課に関して、国家安全保障を理由とする正当な措置と説明しようとしているが、今回の採択によって、(安全保障の基準が明確化されたことで)米国との貿易紛争における、より重要な論拠となる」と語り、自国産業保護のため、国家安全保障を名目とする貿易制限を課す米国政府を牽制している。

(注1)今回のパネル参加国・地域は、オーストラリア、ボリビア、ブラジル、カナダ、カナダ、チリ、中国、EU、インド、日本、韓国、モルドバ、ノルウェー、パラグアイ、サウジアラビア、シンガポール、トルコ、米国。

(注2)関税および貿易に関する一般協定の略称。本稿で記載しているGATTは1994年の改正協定。

(注3)ロシアの人工衛星を利用した測位システム。

(齋藤寛)

(ロシア、ウクライナ、WTO)

ロイター 



[ジュネーブ 13日 ロイター] - 中国は13日、世界貿易機関(WTO)の改革を提案する文書で、「ある特定の加盟国」がWTOの承認を受けずに一方的に貿易障壁と輸入関税を恣意的に引き上げたと批判した。ただ米国を直接名指しすることは控えた。

WTOのウェブサイトに掲載された文書によると、中国はWTOの紛争処理機関の判事任命の阻止、アルミニウム、鉄鋼、自動車に対する「国家安全保障」上の関税措置など、米国のトランプ政権が独自にとっている政策を列挙。「国家安全保障を理由にした例外措置の乱用、WTO規則に整合しない一方的な措置に加え、貿易是正措置の誤用もしくは乱用により、規則に基づく自由で開放的な国際貿易の秩序は著しく阻害された」との見解を示した。

その上で「こうした慣習により、特にWTOに加盟する途上国の利益が著しく阻害されたほか、WTOの権威、および効力が損なわれた。結果として、WTOは過去に例を見ない存続の危機にさらされている」と警告した。

中国はWTOは完全無欠な存在ではないとしながらも、世界的な貿易と投資を円滑に進めるには最も望ましい機関であるとの考えを表明。WTOの改革は「WTOの存在そのものを脅かす重要でかつ喫緊の課題の解決」や「多角的な貿易システムの推進」などを含む4点の柱で進める必要があると提唱した。

米中間の貿易摩擦は高まっており、米国が10日付で中国からの2000億ドル相当の輸入品に対する関税を10%から25%に引き上げたのに対し、中国はこの日、報復措置として6月1日付で米国からの600億ドル相当の輸入品に対する追加関税を最大25%に引き上げる方針を発表した。

ビジネス短信 8ca6890dc0de255b