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キックの鬼っ!
 
「ホァッチョオ〜!!」
 バキイッ!
 気合いとともに、分厚いテーブルが一撃で叩き割られる。
「うっわあぁーッ! お、落ち着いて下さいーッ!」
 クリスが頭を抱え逃げまどいながら制止の声をかけるが、相手は全く聞いていないようだった。
「ふっふっふっふ…クリスさん、アレフさん…覚悟するアル…」
 どこからか出てきたヌンチャクをビシッ!と構えながら、そいつはじりじりにじり寄ってくる。
「ど、どうしたっスか!? なんかすごい音がしたっスけど…」
「たたた助けてくれテディっ…!」
 アレフが、恐怖のあまりクリスと抱き合いながら、普段なら絶対に助けなど求めない相手にすがりつくような目を向けた。まさに心境は「おぼれる者はワラをもつかむ」である。
「ふっふっふ…テディさんと三人がかりでも、ワタシには勝てないアルよ…」
 さらにじりっ、と一歩を進めたその相手は、この街の武器店の店主にして自称カンフーの達人、マーシャル…
 …では、なかった。
「クっ、クリスッ! お前、なんであんなモン読ませたりしたんだッ!?」
「だあってぇ〜! まさかこんなことになるなんて…」
「と、とにかく急いでトリーシャさんを呼んでくるっス!」
 状況を把握したテディが、裏口からジョートショップを出ていく。
 そう。
 今、おっかない目で三人をにらみ、ヌンチャクを構えながらじりじりと迫ってきているのは…シェリルなのだ。
「アチャア〜ッ!」
 ベキャッ!
 その一撃で、床板が砕け散る。
 強い。本物のマーシャルより絶対強い。マーシャルだったら床板を砕くほどの力はない。床に当たって跳ね返ったヌンチャクを向こうズネあたりにぶつけてのたうち回るのが関の山だろう。しかしシェリルは、大人しくて気弱な性格とは裏腹に、自警団の討伐任務に取材のため同行し、アルベルトたちがボロボロになっているにもかかわらず無傷で帰ってくるほどの腕前の持ち主なのだ。
 マーシャルになりきっているおかげで、エンフィールド屈指の破壊力を誇る攻撃魔法を使わないのがせめてもの救いか…。
 必死でしばらく逃げまどっていると、テディが戻ってきた。アレフとクリスは希望に満ちた目で彼を見る。
「テディ! トリーシャはっ!?」
「それが…。自警団のお仕事で、雷鳴山に害虫退治に行ってるらしいっス…」
「えぇえ〜っっ!?」
「ふっふっふっふ…」
 打つ手のなくなった三人に、不気味な笑みを満面にたたえたシェリルが、さらに一歩、近づいてきた…。
 
「ごめんなさい、ごめんなさい…。本当にごめんなさい…」
 結局、思う存分暴れた後でシェリルは正気に戻った。アレフもクリスもテディも、奇跡的に無傷だが…ジョートショップの中は、結構ひどい有様である。まあ、マリアと違って優等生のシェリルが正気に戻ったのだから、魔法で何とか直せるだろうが…。
「いいのよ、気にしなくて…。みんなケガもなかったんだから…」
 アリサはしきりに詫びるシェリルに優しい言葉をかける。しかしシェリルは、正気に戻って状況を把握してからずっと泣きっぱなしだ。
 事の発端は、クリスがジョートショップに持ってきた一冊の台本であった。
 クラス発表の委員長を無事務めたクリスは、それから少し演劇にこり始め、実際に上演したりはしないものの、よく台本とかを読むようになっていた。その台本も、何気なく買ってきた、つい最近書かれたかなり怪しげな安物だった。
 彼はジョートショップに来ていたアレフに用があって、それを持ったままここを訪れた。そしてシェリルは、そんなクリスに、学年共通の講義のことで伝えることがあり、その後にやってきたのである。
 そして、アレフと話し込んでいたクリスがテーブルの上に置きっぱなしにしていた台本がシェリルの目に留まり…。
「ねえ、クリスくん…。これ、読んでみてもいい?」
「え? あ、かまいませんよ」
 …惨劇が始まったわけだ。やはり、かなり…いや、すごく…インチキっぽい二人組の商人から買ってきたシロモノだったのが悪かったのだろうか…。
 以前ならこんな時、トリーシャを呼んできて、チョップ一発で事件は解決だった。しかし、この春から、トリーシャはつぶれかけの自警団第三部隊のお手伝いを始めてしまい、今日のように、すぐに来られないことも多くなってしまった。
 
 正気に戻ったシェリルの魔法による修復が終わると、三人はジョートショップを後にした。残されたテディは今までのことを考えながら、思いを巡らせる。
(トリーシャさんに頼らないで、シェリルさんを正気に戻してあげられたら…。
 でも、ボクにそんなことできっこないっス…)
 しばらく前の、「フェニックス美術館盗難事件」のとき、シェリルはこのジョートショップのために力を尽くしてくれたのだ。テディはそんなシェリルにとても感謝していたし、道端で鳴いていた子猫を拾って連れてきてくれるような優しい彼女のことが…異性としてではもちろんないが…好きだった。だが、そのシェリルが今日のように暴走し始めたとしても、自分は何もしてあげられない。
 自分の無力さに落ち込みながら、テディがため息をついていると、
「テディ?」
 奥から、アリサが出てきた。
「あ、ご主人様…」
「どうしたの、テディ?」
「な…なんでも…ないっス」
「シェリルちゃんのこと?」
「・・・・・!」
 アリサは、内心を見透かされて驚くテディを抱き上げ、優しくささやいた。
「力になってあげたいわよね…」
「・・・・・・」
 テディは、そんなアリサの言葉を、黙ったまま聞いていた。
 一つの決意を胸に秘めながら。
(そうっス…。ボクも、何もしないでいちゃダメっス…
 やってみもしないで、諦めちゃダメっス!)
 
「そっか…。そんなことがあったんだ…。そうだよねえ、いつもボクがチョップしに行けるとは限らなくなっちゃったもんね…」
 次の日の夕方、自警団の仕事が終わる頃。テディは、自警団事務所にトリーシャを訪ねた。やはり、こういうことはその道の達人に尋ねるに限ると思ったからだ。
「というわけで…ボクにも教えてほしいんっス」
「トリーシャチョップを?」
「そうっス」
 テディがうなづくと、トリーシャは、悲しんでいるような、怒っているような、困っているような…そんな複雑な顔で首を振った。
「ダメなんだよ…テディ」
「どうしてっスか?」
「ごめんね、テディ。意地悪で言ってる訳じゃないんだよ。ただね…。トリーシャチョップは、『一子相伝』なんだ」
「一子…相伝っスか?」
「そう。トリーシャチョップを伝えていいのは、ただ一人の後継者だけなんだ」
「そこをなんとか…」
「テディ」
 トリーシャはかがみ込み、テディと視線を合わせる。そして、真剣な顔で諭すように言った。
「テディは、ボク(トリーシャ)の技だから『トリーシャチョップ』なんだと思ってるでしょ?」
「違うんっスか?」
「逆なんだ。『トリーシャチョップ』の使い手だから、ボクは『トリーシャ』なんだよ!」
「ええっ!?」
「『トリーシャ』っていう名前は、『トリーシャチョップ』の正当な使い手であることの証なんだ。トリーシャチョップを伝えたら、その名前も一緒に伝えなきゃならない。テディが真剣じゃないとは思わないけど、『トリーシャ』を継ぐ者に相応しいとも思えない」
「・・・・・・」
「ボクはこの名前と『トリーシャチョップ』をお父さんから継いだんだ。この技は、フォスター家に代々伝わる秘技なんだよ」
「そうだったんっスか…」
 テディは思わず、リカルドが「トリーシャ」と名乗り、「キミのハートにっ! トリーシャ・チョーップッ!!」とか叫んでいるところを想像し…がっくりと肩を落とした。
「それじゃ仕方ないっスね…。無理を言ってしまってごめんなさいっス」
「ううん。ボクこそ力になれなくてゴメンね…。
 でもね、テディ」
「何っスか?」
「シェリルを元に戻すには、別にトリーシャチョップじゃなくてもいいんだ。充分な威力のある衝撃を、グッドポジションに叩き込めば…そのショックで、シェリルは元に戻るはずだよ」
「グッドポジション…っスか?」
「そう。グッドポジションは…『右斜め45度』だからね」
「『右斜め45度』っスね?」
「そう。
 シェリルのこと、お願いね…テディ!」
 言ったトリーシャは、右手…チョップの使い手として、簡単に人には預けない利き手…を差し出す。
「トリーシャさん! ボク、全力を尽くすっス!!」
 ガシッ!
 トリーシャとテディは互いの手をしっかりと握りしめ、熱く燃える眼差しで互いを見つめた。
 
 シェリルを正気に戻すポイントはわかった。
 一つは衝撃を与えるグッドポジション…これは、トリーシャから確と受け継いだ。
 そしてもう一つは、衝撃の充分な威力。
(今のボクの力じゃあ…シェリルさんどころか、マーシャルさんにも効きっこないっス)
 そう思ったテディは、充分な攻撃力を身につけるために…自警団員寮に向かった。
 
「…それで、オレに稽古を付けてくれ、と?」
「そうっス」
「だがなあ…。オレにも仕事があるしなあ。第一部隊と第三部隊の掛け持ちだから、忙しいんだ」
 アルベルトは難しい顔で、訪ねてきたテディを見下ろす。
「なんとかならないんっスか…?」
「アリサさんの…あ、いや、シェリルの…そう、シェリルのためにだな、力になってやりたいのは山々なんだが…」
「なんだか…シェリルさんのことはどうでもよさそうっスね…」
 ジト目で見ているテディの視線から目をそらしながら、
「そっ…そんなことはないぞっ。確かにあの事件の時、シェリルには、遥か彼方からV・ノヴァ一撃で部下ごと壊滅させられたりしたこともあったが…」
 とかなんとか言いつくろう。フォローにもなっていない上に説得力もない。
「ふうーん…。そうっスか」
「なっ、なんだテディその目は」
「あきれてるだけっスから気にしないでほしいっス。じゃあ…」
 さらっと言った一言でアルベルトがキレかかっているのに気付いているのかいないのか、テディはその場にいたもう一人に視線を移した。
「クレアさん、お願いしますっス」
「わ…私ですか?」
 クレアはいきなり話の矛先を向けられて戸惑ったが、恥ずかしそうにうつむいて、
「でも…私、テディ様に何かをお教えするほどの腕前はございませんわ…まだ未熟者ですから…」
 やんわりと、テディの申し出を断った。しかしテディはめげない。
「大丈夫っス! この間、アルベルトさんを一撃で血の海に沈めてたじゃないっスか!」
 その一言で、アルベルトとクレアの両方の顔が一気に真っ赤になった。確かにこの間、クレアが、新作の化粧品を手に入れようとしていたアルベルトを秒殺した、などという微笑ましい出来事もあったが…まさかそれを見られていたとは!
「い…いやですわ、私ったらはしたない…」
「おい…テディ、まさかその時…」
「もちろん、ご主人様も一緒だったっスよ」
「あああああ。」
 アルベルトは思わず椅子からずり落ちる。そんなアルベルトを意にも介さず、テディはクレアにずずいと迫っていた。
「という訳で! アルベルトさんなんかよりずっと強者なクレアさんにお願いするっス!」
「そんな…私が剛力無双の猛者のような言い方をなさらないで下さい!」
「てめえ、テディ! さっきから黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!」
「な、なにいきなり怒ってるんスか?」
 ついにキレて立ち上がったアルベルトをテディは茫然と見る。
「行くぞクレア!」
「は…はいっ、兄さま!」
 そして…。
 ボスッ!
「わああああ!!」
 アルベルトとクレアの、ぴったり息のあった左右からの蹴りを同時にくらったテディは、どこかの黄金コンビが蹴飛ばしたサッカーボールのように左右に激しくブレながら、自警団員寮の窓を突き破り、すっ飛んでいった。
 
「あー、ヒドい目にあったっス…」
 頭に大きなバッテン型のバンソーコーを張り付けて、テディはさくら通りを歩いていた。
「でも…さっきの蹴り。ボク…何かが見えた気がするっス」
「あれ? テディくん、どうしたの、そのバンソーコー」
 そんな風につぶやくテディに、少女の声がかけられた。見上げると、往診カバンを抱えたディアーナだった。
「ケガしたんなら、診てあげよっか?」
「…遠慮するっス」
「どうして? 遠慮なんてしなくていいよ?」
 とか言いながら、ディアーナは素早くテディを抱え、バンソーコーをはがしてみた。
「…何、この足跡? それも二つも?」
「…苦心の跡っス…。
 あ、そうだ、ディアーナさん。筋力を効果的にアップさせる方法って、何かないっスかねえ?」
「筋力を?」
 さきほどコーレイン兄妹のツイ○シュートを食らってみてわかったのだ。やはり威力の基本となるのは筋力であり、自分にはそれが欠けているということが。
「…やっぱり、普通なら地道なトレーニング…なんだろうけど。
 テディくんはラッキーだよ! あたし今ちょうど、いい薬持ってるの」
「…ドーピ○グっスか?」
「人聞きが悪いなあ…。一時的な増強じゃなくって、ちゃんと恒常的に筋力が向上するんだってば」
 言いながらディアーナは診療カバンを開け、中から薬瓶を三つ取り出した。
「左から、
 『ほとんど気休め』
 『何かと引き替えに筋力を手に入れる』
 『脳まで筋肉になって何も考えられなくなる』
 …となってるけど、どれにする?」
「…心の底から遠慮するっス」
 
 執拗に迫るディアーナの魔手をかいくぐり、なんとかテディがジョートショップに生還したときには、もう日が暮れていた。
「ただいまッス、ご主人様…」
「おかえりテディ。どこに行ってたの?」
 優しく声をかけてくるアリサ。一見すると「充分な威力のある衝撃」などとは無縁に見えるが、それでもテディは、アリサに今日一日の出来事を話し、相談してみた。
「…やっぱり、そういうことだったのねテディ」
「えっ…。やっぱり、って…」
 テディの疑問の声には答えず、アリサは窓から外を見る。
「今なら、もう人も見ていないわね。テディ、雷鳴山に行きましょう」
「どういうことっスか…?」
「私もあなたと同じ気持ちなのよ。
 協力させて、テディ」
「ご主人様…」
 
 そして、アリサとテディは、由羅の目にも付かない雷鳴山の奥まで、夜遅いにも関わらずやってきていた。
「ねえ、テディ。この間、あなたに新しい箱をあげたでしょう?」
「これのことっスよね」
 テディは自分が乗っている木箱を指差す。今年の春、今までのダンボールみかん箱のかわりにと、アリサにもらったものだ。
「中を開けてご覧なさい」
「…?」
 テディは言われたとおり、木箱の蓋を開け…そして、目を見張った。
「いつかあなたが、これを必要とする日がくるんじゃないかと思って…作っておいたのよ」
 アリサの言葉を聞きながら、テディは木箱の中からそれを取り出した。まるでバネと重りのカタマリのような、金属製の道具である。
「これは…」
「『テディ・キック養成ギプス』よ」
「よ…養成ギプスっスか!?」
 それにしても、トリーシャチョップに代わる自分の必殺技として「キック」を選んだのは、ついさっきコーレイン兄妹に蹴飛ばされたときだと言うのに、どうして春からこの箱に入っていた道具に「テディ・キック養成ギプス」などという名前が付いているのだろう。テディは気になったのでアリサに聞いてみたが、
「ふふ。テディ、そんなこと、気にしなくたっていいの」
 アリサはただ微笑むだけだった。
「…それにしてもご主人様、これはちょっと厳しいっス。重りに『16t』とか書いてあるっスよ…」
「大丈夫、あなたならできるわテディ」
「ご主人様…そんな優しげに微笑みながら言われても…」
「この間だってアルベルトさんに運動不足って言われたばかりじゃない。大丈夫よ、頑張って」
 アリサに優しげに微笑みながら言われると、頑張らなければならないような気がしてくる。テディは半ばしぶしぶではあったが、「テディ・キック養成ギプス」を装着した。
 
「さあ、頑張ってテディ。ランニングよ」
 アリサはにっこり微笑んで、ものすごい上り坂…というか、ガケ…を指差す。
「ハアハアハア…辛いっス…」
 
「さあ、頑張ってテディ。このお地蔵さんを背負って石段をうさぎ飛びよ」
 アリサはにっこり微笑んで、どこからか持ってきた巨大なお地蔵さんをテディに背負わせる。
「ゼエゼエゼエ…死ぬっス…」
 
「さあ、頑張ってテディ。この激流を遡るのよ」
 アリサはにっこり微笑んで、テディを激流に突き落とす。無論16tの重りはついたまま。
「ガボガボガボ…」
 
 アリサとテディのそんな特訓は、それから数日続いた。
 そして、そんなある日のこと。
 
「はははは、ちょっと実験台になってもらうだけだよ」
「うぅわあぁ〜ッッ!! や、やめてくださいシェリルさん〜ッッ!!」
 一体何の本を読んだのか、いつものメガネの代わりに黒いサングラスをかけたシェリルが、じりじりとクリスににじり寄ってくる。この間のなりきりマーシャルのときと違い、恐ろしいことに、今度は魔法を使うつもりらしい。
「まあ、いいじゃないか。悪いようにはしないからさ!
 それでは、いくよ!!」
「トっ…トリーシャはっ!?」
「薬草採集に、街の外へ行っているはずよ」
 アレフの必死の問いに、アリサは妙に落ち着いて答える。
「ブツブツブツ…」
「もーダメだあ〜!!」
 シェリルが怪しげな詠唱を始めたのを聞いて、クリスは頭を抱えた。これで僕は全身ずぶぬれにされたり大きな球体に閉じこめられたりウサギにされたりしちゃうんだ!
 クリスがずいぶん具体的な絶望ビジュアルを思い浮かべた、そのとき!
 バタアン!
 ジョートショップの表戸が、勢いよく開いた。
「そこまでっス!」
(来てくれたのね)
 アリサは微笑んで、彼を見た。アリサが落ち着いていたのは、彼が来ることがわかっていたからだったのだ!
「特訓の成果を今こそ見せるっスッ!!」
 そしてテディは力強く木箱を蹴った! この日を見越してアリサが用意した木箱は、彼の力強い踏み切りにも見事に耐える!
「テディ・キーーーーック!!!」
 シェリルが気付いたときには、テディの足は、既に回避不能な距離にまで迫っていた。そして、あやまたずシェリルの右側頭部45度の「グッドポジション」に、それは炸裂した!
 ポコ。
 ファンシーなその効果音とは裏腹に、キックの直撃を受けたシェリルは、ぎゅりぎゅりと回転しながら吹っ飛ばされ、
 ガコオッ!!
 などという派手な音とともにジョートショップ一階天井に激突すると、
 ずるずるずる…ぽてっ。
 壁づたいにずり落ちてきて、床に転がった。
「ああっ! シェリルさ〜ん!」
 その光景に度胆を抜かれたクリスが慌ててシェリルに駆け寄ると、
「わ…私…生きてる…。
 助かったのね…うふ…うふふ…」
 彼女は、本の世界からは帰ってきていたものの、それとはまた別の世界に行ってしまっていた。
「ふふふ。やったわねテディ」
 シェリルを蹴り飛ばした反動で、くるくると回転し、すたっ、ともとの木箱に見事着地したテディに、アリサがゆっくりと歩み寄ってきた。
「ご主人様…ご主人様のおかげっス!」
 テディもまた、熱い眼差しでアリサを見つめる。
「ううん、あなたが頑張ったから。私はただお手伝いをしただけよ」
「ご主人様!」
「テディ」
 そしてアリサとテディは、辛い特訓を共に越えてきたという強い絆に結ばれ、熱い抱擁をかわすのであった。
「おいクリス! シェリルは大丈夫なのか!?」
「シェリルさん! しっかりして下さい、シェリルさ〜ん!」
「うふ…うふふ…」
 
 それからも…。
 テディ・キックは、ペットを人質にして民家に立てこもった犯人を撃破するなど華々しい活躍を遂げ、ジョート・ショップの常備兵器として恐れられたという。
 
 めでたし、めでたし。
 
                           <おしまい>
【後書き】
 めでたくないやい(苦笑)。
 どーもー、もーらですー。シェリルファンのみなさんごめんなさい。私もファンですから許して下さい。まさかこの私がシェリルを壊れ役に選ぶとは…自分でもまだ信じられない…。あうあう(←「落ち込み(軽症)」になっている)。
 登場キャラクターのほとんどが1stのキャラクターですが、一応これは時間軸(2ndの10/1〜12/5の間)的には2ndのSSです。なお、1stのパーティはアレフ、クリス、シェリルで、2ndのパーティはアルベルト、トリーシャ、由羅です。
 書き始めたきっかけは当然「テディ・キック」のインパクト。すごいぞテディ、こんな技があったなんて。と感動した私は、この技のSSを書こうと思い立ってしまいました。すごいよね、テディ・キック。命中音は「ポコ」なのに、吹っ飛ばされると「ドンガラガッシャアンッッ!!!!」になっちゃうんだもんね(詳しくは由羅のイベント4「誤算」を参照のこと)。あのテディがこれだけの威力のある技を放つからには途中にいろいろ紆余曲折があったのだろう、ということから考えていって、このSSができました。
 テディ・キックのできるまで、ということのほかに、このSSでのポイントは、トリーシャ・チョップの新解釈。9割方冗談ですが、1割ほど本気です。根拠はドラマCDでリカルドが「トリーシャ・チョップ」を使っていたこと。裏ドラだから制作者側も冗談のつもりなのでしょうが…。ちなみに、本編でテディが想像していた、リカルドの「キミのハートにっ! トリーシャ・チョーップッ!!」はCDで聞けます。
 あとはアリサさんの特訓ですかねえ。一瞬アリサさんに、「特訓と言えばコーチ! コーチと言えばジャージ!」とかやらせてみようかとも考えたんですが…さすがにアリサさんのイメージと違いすぎるんで止めときました(本編のアリサさんがイメージ通りかと言われたらそれはそれで疑問ですが)。
「キックの鬼っ!パートU vsトリーシャチョップ編」とかいうのも考えてはいるのですが…。
 読みたい? ねえ、読みたい?(←ローラの声で)
 それでは今回はこの辺で。なんだか壊れ気味のもーらでしたー。
 
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