| ■北信流■ 北信流とは、長野県の北の地域(北信地域)で行われている宴会の席、主に中じめの儀式です。 招かれた側が感謝や苦労を労う意味でお酒を差し上げ、主催者がそれに返杯をするという形で行われます。実際どんな風に進むのか、紹介してみます。 1.宴会があまり乱れていないころあいを見計らって宴席の参会者(招かれた方)から、 「本日は盛大な宴会を催していただき誠にありがとうございます。この場をお借りして、本日ご苦労いただきました方々にお杯を差し上げたいと思いますが如何でしょうか」 と提案があります。だいたい拍手で賛成が得られます。 2.提案した人が、 「それでは、差し上げる方などは私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか」 と再び問います。また拍手で賛成が得られたら、杯を受ける人、差し上げる人、介添役、毒味役、お肴を出す人、を指名します。 3.指名された人たちは、座の中央または上座に出て並びます。 4.介添役が毒味役にお酒を注ぎます。 5.毒味役はお酒を飲み干し、 「大変美味しいお酒でございます」 と答えます。介添役は杯を受ける人(その会の主催者など)と差し上げる人の間の脇に控えます。 お酒を差し上げる人が、空の杯を受ける人に手渡し介添役がお酒を注ぎます。 6.ここでお肴が登場します。本物の肴ではなく、ここでは先ほどお肴を出すよう指名された人が小謡を唄います。 受ける人がお酒を干したら、 「重ねて」 などと言いもう一度注ぎます。この間小謡は続いています。 7.お酒を飲み終わった主催者は、 「みなさま、ただいまはありがとうございました」 と礼を言い、席を辞します。 8.座を下がった主催者は、 「つきましては、今頂いた方々に杯を差し上げ、皆々様に差し上げたものとご了解下さい」 と挨拶をして、今度は主催者側から、参会者へお返しとして全く同じ事を行います。 本来はお肴を出す人も別の人になるところ、謡の優劣をつけないために同じ人にするのが一般的とのことです。 この間所要15分ほど。これで宴会は中じめとなります。 謡には種類もあって、 結婚式には「高砂」 地鎮祭・上棟祭・竣工式には「鶴亀」 会合には「羅生門」「竹生島」「猩々」 送別会には「鉢の木」 仏事には「誓願寺」 などとなっているようです。 北信の人たちは大変!謡が唄えないと宴会にも出られない。 もっとも現在はここまで正当に行われているところは少なく、最近は宴会の中じめに、招かれた側が万歳三唱を発声し、主催者側がお返しにまた万歳を発声するというように省略した形も見られます。ちなみに宴会の最後に万歳をするのも長野県独特。 なぜ信州の北信地方にこの習慣が残ったのでしょう。 杯事と呼ばれる儀式で謡を唄ったり舞を舞ったりするのは、戦国時代武将が出陣する折、主君の武運を祈って行われたのが始まりといわれています。北信流も、松代町が発祥と言われ、別名「真田十万石流」とも呼ばれるように松代藩(武家)から興ったもののようです。 松代藩は「二度と徳川家に弓を引かない」ということで武芸よりも学問、芸能が奨励され、江戸時代は能楽が盛んに行われました。謡も武家から一般の家にも普及していきました。その中で、感謝やお礼の意味を表すものとして宴席で謡が「お肴」という形で出されるようになったと思われます。 私自身、本家北信流にはお目にかかったことはありません。(先に書いた万歳を返すのは何回か経験しましたが)長野県内でも北信以外の地域では行われていませんし、全国的にも珍しい風習のようです。謡を肴になんて粋な儀式です。是非一度きちんとした形のものを見てみたいです。 |
□主な参考資料□ 『信州の冠婚葬祭』 (信濃毎日新聞社) 『なんでも食べるゾ信州人』 中田 敬三 (郷土出版社) |