歌番号

1126 

作者

 

ひらがな

としつきも いまだへなくに あすかがわ せせゆわたしし いしばしもなし

万葉歌

年月も いまだ経なくに 明日香川 瀬々ゆ渡しし 石橋もなし

原文

年月毛 未経ニ 明日香川 瑞瀬由渡之 石走無 

明日香の里をゆっくりと絶え間なく流れている明日香川、そのながれは時には優しく時には愛し合う二人の間を裂いてしまうような過酷さを持ち合わせている。辺り一面は若草に萌える昼下がり、川面に陽射しが当たり、きらきらと輝いて見える。その透明で清冽な流れはまさに、生命の象徴であり。せせらぎの音までも聞こえてきそうなだ。
その絶えなる川の流れをじっと観続ける一人の男がいる。「逢いたい」その気持ちを裡に秘め、彼女の透き通るような白い肌と、そのきめのこまやかな感触がまだこの手に残っている。その押さえ難い感情に身も焦がさんばかりに悶えている。二人の間にたちはだかる障害、この越えがたい現実に向かって明日香川までもが私に邪魔をしているような錯覚に陥ったのであろう。せめてこの岩と岩とを結ぶ橋でもあったなら直ぐにでも逢いに行けるのにそんな悲痛な叫びが聞こえてきそうである
。