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村 透



『B l u e K i d』

Blue Kid
針金の少女が県境の山を越えて海辺の駅に降りる梅雨明けの熱く湿った人いきれ。
麦藁帽子を片手で押えて浜風にくすん、と鼻を鳴らせ、
薄、Blue

花柄のワンピースに疲れ顔、小さく囁く口、人形じみたプラスチック、
な黒髪をきりり、と、
たたえ。
薄、Blue Blue Kid
夏衣装のトランクに濃紺の水着を隠し持つ針金の腕
ろうたけた頬を上気させて切れ長の目が子猫の玉の瞳、ころころと
海の見える窓からFall Down
白い雲と
Step、
して駅舎の冷房の傘をたたみ炎天の白い
車道を踏むと
蝉の冷やかす声の方、帽子のつばに手をやり望めば緑の木陰に道が繋がる事を知る。
坂道の傾斜がまくれあがり少女は抱擁されているかのように眉をひそめてのけぞ、
らせた顎先に玉虫の汗
無、
言でついて来るから疲れ顔は生まれつき針金の肩先から根元を包む薄、
Blueの生地に影絵のようにみるみる染みて。
夏は湿った毛布のように坂の途中の傾斜にへばりついた迷路じみた旅館を覆う、
から冷房の効いたロビーでさえも、ひなたの匂いと水の匂いが入り混じる。
夏衣装のトランクを置いて水着の薄皮をワンピースの内側にまとう、と
わずかな荷物だけを手にして海へと急ぐ赤い絨毯を大股で行く階段の二段飛び腿、
が鳥のように交差して売店にぶらさがるビニルの浮き輪をきゅう、とだきしめて
小声で笑い
薄、Blueの
胸をとがらせて宿の冷気を脱ぎ捨て太陽の下り坂、緑の日傘の軌跡をたどり
白くまぶしい車道を渡り駅舎を越えて港へと。
水着の薄皮は濃紺に心なしか透けて薄、Blueのワンピースにくろぐろと魚じみ
て映り、
後をついてくるおぼつかない足どりはそれでも桟橋を浮き浮きと渡る連絡船のデッキ
を踏みしめてほっとする、
間もなくエンジンが吠え海底からゆすぶるように船を引っ掻き島渡りの人の群を
わずかに黙らせる
と、
アナウンスと潮風と波のうねりと海のぬめりが船ごと、少女の背を押して。
船室は列車の座席の整然さとタクシーじみたぺらりと白い広告の座席カバー、
窓際の座席に腰掛けた少女は航路が落ち着くと途端に眠りに犯される。
麦、
藁帽子がずり、落ちて、虚ろな目の子猫も欠伸にひたひた
窓越しの太陽に胸から下をさらしながらもぴったり閉ざされた船室の冷気とエンジン
に股間をゆすぶられて薄く腿をゆるめ力を抜きいつしか帽子は床に、ほと、と落ちる
拾えば、
もう、首まで眠りに満たされた少女は時計の針が進むように斜めにしなだれかかり
プラスチックな黒髪も桃色に上気した頬と一緒に崩れかかり、ささえるのにくすぐ
ったくチクチクと頬は湯のように暖かい。
Blue Kid
船に夢見られる午睡の至福を経てエンジン音の変化とともに少女は魚のように身もだ
えて目覚める。
森そのものが潮からせり上がるように島は水平線から姿を現せて。
島の港には古タイヤの首飾り鈍くコンクリートで陽光をはじきながら迎える。
ほてりと余韻を確かめるかのように少し跡のついた頬をなで乱れた髪を首をふりふり
かきあげながら口をとがらせて何かを唱えて、みる。
もう船は止まりエンジンも低く小さく島渡りの人の群とともに少女は馬にまたがる、
ようにおそるおそる島に足を預けて、
から、
Step、
ほう、と息を吐き炎天の堤防沿いをついて来る、ひまわり、のサンダル。
不思議、と蝉の声は死に絶え道行く車もなく堤防は三角に海を削りのぞき込もうに
も少女の背は足りない。
太陽は中空に、動かず緑も遠く、木陰の染みひとつない清潔な道を、
Step、
ひまわりのサンダルで行く白い道もさすがに、
つきて、磯の匂いが鼻を打つ浜へとたどりつく、
間もなく少女の足は速まり、もどかしげに
Blue Kid
テントの木陰に割込み、人と人の間を縫い、小さくしゃがみ込み荷物を置くと
そのまま身をくねらせて花柄のワンピースからするりと脱皮する、
蒼い、魚の裸身、
と見紛う、ワンピースのスクール水着に、
胸に縫いつけられた名札と縫合のアクセントに彩られた渇いた、海の針金
砂を蹴たてて慌ただしくラジオ体操の真似事をする時も瞳は海の藍色しか見えて
いない、浜で、遊ぶ群、群の声よりも体操の音楽、よりも耳に届く届く
薄、Blueに呼ぶ風、
の。
ついに海に解き放たれた魚は体ごと渇いたスポンジのように海水に身投げして
思うさま、潮に波に藍に蒼に水着の細い腕を肩を腿をうなじを、噛ませる
ままに。

、のStep、

Stop、

モーション、

そして

浜にもどった少女は透明に冷えた体をタオルに包み獣のように呼吸する。
体操座りの後ろから手を伸ばし少女の、おとがいに指をはわせその、
目に目隠しをする。おぼつかなげに前に手をさぐるように突き出し、立ち上がる
手探りの手に棒をくれてやるとふいに振り向き鋭く踏み込み様に棒を振り降ろす
や、
砕けるブルーシートの上何度も何度も棒をくれてやる西瓜の
遺骸は拍手と人の群からの賞賛とホイッスルと包丁をかざす白い歯の胸と
まな板の上で腑分けされる少し砂がまじりじゃりじゃりと、サクサクと甘い汁の
三日月に顔を埋めながら堤防にしゃがみこむ腿はぴたりと閉じ祈るように目
も閉じて拝むように食む、たたず
む、魚はこくこくと喉を鳴らす陸に棲む生き物になる、
けれど屠った獲物にあきる、
と再び海に抱かれにゆく足取りゆっくりと。
浅瀬に腹這いに顔を沖に向けおびえる、わななき、で白い波の顎に濡れ濡れの黒髪
ごと首をさらわれるのを待つ。
待つ。
波の顎、かつん、と牙と牙で食むそのぎりぎりに遊ぶ。白い、砂は湿り気を帯び、
少女は仰向けに身を横たえ、かたわらの砂と砂を両手一杯にすくい、抱き締め、
腕を肩を腿を胸を腹を埋める。埋葬、して欲しいと砂を求めて繰り返し繰り返し
手を伸ばし、

僕を見つめる。

そして願いは、かなえられる。
そしてその願いは、かなえ
られる。


薄、Blue
Blue Kid
蒼い、魚の裸身
を埋める砂浜から風にさらわれ、あおぞらに噛まれ海を飛ぶ

花柄のワンピース


『柑橘系の簡潔な朝の叙述』


1. 太陽のひとしぶきが僕の額に夏を刻印する夜明け


2. 僕はパジャマの袖を不器用にたくしあげながらテーブルに付く


3. 風のブランコに押されてレースのカーテンが膨らみ高まってゆくキッチンで


4. 君が力いっぱい、柑橘系の耳たぶを赤らめたまま


5. 誇り高く張りつめた果肉をスクゥイ−ズする、時


6. 僕たちはゆっくりと皮膚呼吸を繰り返し朝のシステムを立ち上げてゆく、そして


7. 僕という名のナイフは熱を帯びたひとつのホーリィなビートに寄り添おうとする


8. 甘皮を噛むようなかゆみともどかしさ爪を濡らす果汁の予感に撃たれ震えながら


9.「僕は硝子のまま鉄を打つハンマーになる」、と


10. 小さく約束を口にする。



 『恐竜ハピネス』

 1
 僕の海で、恐竜の化石がとれたんだ
 まち中みんな大騒ぎさ、新聞にTVも、やって来て
 まるでサーカスみたい、イベント広場、あっと言う間に出来たのさ
 遊園地気分のこども連れ、見下ろす僕らは空に近く
 葬儀屋のKと僕たちは、海の見える丘公園に仲間を集めた
 竜の石が神様に召されますようにコンサートを開いたのさ

 僕たちの公園は、海の見える丘じゃなかった
 暗くうっそうと草ぼうぼう、首くくりの木なんてあって
 でも僕らは仲間と、市長と社長とおばさんたちをたきつけて
 草刈りとペンキの魔法で、海の見える丘に変えたんだ
 葬儀屋のKと僕たちは、海の見える丘公園に仲間を集めた
 竜の石が神様に召されますようにコンサートを開いたのさ

 *恐竜、ハピネス、恐竜、サニィ・ディ
  海の見える丘公園に
  首長竜が浮いている


 2
 僕の海で、恐竜の化石が次々と見つかる
 まち中みんな大あわてさ、学者にTVがやって来て
 まるで遺跡みたい、まちに外国人、あっと言う間に増えたのさ
 探検隊気取りのこどもたち、見下ろす僕らは雲に近く
 葬儀屋のKと僕たちは、海の見える丘公園に仲間を集めた
 竜の石が神様に召されますようにコンサートを開いたのさ

 海の見える、丘には首長竜が浮かんでいる
 青い海と雲の向こう、僕たちの火葬場の煙
 親父も兄貴も、あの煙に乗って、いっちまってそれからの僕は
 お袋と君とこのまちを、ささえて歌っている
 葬儀屋のKと僕たちは、このまちで煙になろうって決めた
 僕もいつか、Kの火葬場で焼いてもらうんだって笑う

 そう、例えばこんな、最高の日に
 今日は死ぬのにもってこいの日さ

 *恐竜、ハピネス、恐竜、サニィ・ディ
  海の見える丘公園に
  首長竜が浮いている
 
 *恐竜、ハピネス、恐竜、サニィ・ディ
  海の見える丘公園で
  神様に召されますように

 そう、例えばこんな、最高の日に
 今日は死ぬのにもってこいの日さ



『恐竜ハピネス』
【初出 】  「げぱーなニフティ・サーブ詩のフォーラム詩と通信の1stStep 」FPOEM 第一回歌詞コンテスト一位
入賞
 【Thanks to】 作中”今日は死ぬのにもってこいの日さ”というフレーズは、以下の著作へのオマージュです。    
ナンシー・ウッド著 フランク・ハウエル画金関寿夫訳 『今日は死ぬのにもってこいの日』(めるくまーる)





 眞由美


積乱雲とドーナッツ雲 (積乱心とドーナッツ心)

ずっと雲を眺めていた
海が、そらに広がる雲をまるごと
鏡のように映し出すことに気づいた
あの大きな積乱雲さえも

積乱雲は最後まで積乱雲だった

暖かく湿った空気を内に抱えていても
内にあるものを拡大させていっても
時の流れと太陽の傾きにあわせ
その色を変えていっても
積乱雲は最後まで積乱雲だった
ドーナッツ雲になんて ならない

海も私だった





 法 師



経典をもとめて インドの聖地にたどりついた。
インド三千年の歴史の中で 仏法の流れの
源流こそが ナーランダ寺院ではないかと思い
到着したとき 心の原点にたどりついた思いでした。



                       法 師






 奥主 栄




















嫌詩系(イヤシケイ)詩

                  奥主 栄


    ぶるぶるぶる

 寝苦しい夜だと云うのに
  ぶるぶるぶるが通るので
 硝子戸がスパークします
 いやなものは
     まるで
 ぎろちん   なので
 むてっぽうに
    逃げ出してけせらせら


    よってきます

 ひたひたひたト
    足音がして
 よってきます のは
 怪人破天荒なので
 悪ノリして
    のってきます


  

    ほこら

 ほこらには蛇が住んでいるとかいうのですが
 写真でしかヘビを知らないのであります
 そのうねうねしたとかいうものが
 ホコラにいるのだと思うとイたたまれません
 まといつきだすのです
 てらてらぴかぴかの金の体デ
 えたいの知れないもんが
   えたいの知れない場所にいて
 ほこらしげな様子を
 しているかと思うだけで
       (ヤダナー)
 ゾっとするのです





     ナイフ

 ぎらっとしたもんがほしかったので
 笑ってるヤツも泣いているヤツも
 みんな嘘だと思ったんで
 リアルなものが必要だったんです

 そいつはいざとなれば自分の
 肌の中にざくんと
 くいこませることができるんで
 ダマシがないから
 汚くって見苦しい僕を
 消すこともできるもんだから
 ギラギラしていていいんだと

 使い道などないくせに
 もてあましてしまうくせに
 それでも手のひらの中で
 ひらめかせて

 使えないくせにそいつを
 持ち歩いていることが
 気持ちを安らがせ
 いつも裸の王様のように
 緋のカーペットの上を
 歩くことが性になっている






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(作者敬称略)