北海道夏至ツーリング’05
2005−06/11〜06/16
今年は公の仕事が回ってきて北海道行きは諦めていたのだが、もう一人の仕事仲間(上司?)の理解があって北行きが可能になった。勿論家族の理解も。

そんな事情から例年の同行者からの問い合わせには「今年は難しい」ということで納得して頂いていたから、万一行けるようになったとしてもソロのつもりだった。

ところが昨年はじめて参加してくれた友人のヒラモト氏が今年も同行してくれることになった。氏は私の日程を含めた優柔不断な計画に柔軟に対応してくれたのだった。

ソロツーリングには慣れているし、それはそれで趣があるのだが、長期間長距離長時間走行を敢行する場合には、やはり信頼できる友人が居ると安心感が違う。そしてそれははからずも具体的なカタチで実感することになった。

参加者
ヒラモトさん:トライアンフ アドベンチュラー
私:SRX

6月11日

昨年同様出発が早朝になるツーリングの前日はよく眠れない。やはり今年も3時に掛けた目覚まし時計のお世話になることもなく目覚めた。

昨年の秋に購入したSRXはシンプルの見本の様なMCであり、今回はこのシングルが北海道の大地でどのような走りっぷりを見せてくれるのか興味津々だった。

シンプルは良いのだが、スリム過ぎるシートが果たして1日10時間以上500〜600Kmのライディングを問題無くこなしてくれるだろうか?と心配になったので、出発の数日前に浜松のタイラレーシングまで日帰り往復660Km11時間のテスト走行済み。
半分は高速を含むマトモな道、半分は知る人ぞ知るR152メインのタイトなワインディングを走った結果は、右太腿の内側に多少痛みを感じた程度でさしたる問題ナシ。

でも毎回感じるのだが、SRXで走った後BMWに乗ると、SRXが軽トラだとしたら、R1100Sは高級乗用車くらいの違いがある。だから、何も北海道を軽トラで走らなくてもよさそうなものだが、安楽なMCが楽しいとは限らないし、昨年来シングルの不思議な魅力にとらわれそうになっていたから、悩んだ末やはりSRXで出かけることにした。

1万キロ程度でもすっかり減っていたブレーキパッド交換をはじめ、整備は入念に行ったつもりなのだが・・・・(^^;

3時50分イグニッションスイッチを回しセルボタンを押すと、ノーマルマフラーからは頼り無いほど静かな排気音が吐き出され、これで18年20回続いた北海道ツーリングの、当分の間休止状態になるだろう最終章が始まった。

天気予報は二転三転し、先週までの好天予報から昨年同様一転して下り坂だし、台風が接近しているのも同じだ。
昨日の予報が外れ、今朝は覚悟していた雨がまだ落ちてこないのがせめてもの救い。
遠慮げな排気音を発してSRXは快調にR148を北上する。糸魚川辺りで空が白み始め、柏崎からはいつものようにお気に入りのR402を北上した。

黒崎ICで北陸道に乗り、黒崎PAでヒラモトさんを待つ。約束は8時30分だったのだが、到着は1時間前。
下道ばかりで、しかも災害復旧工事で迂回したにもかかわらず、随分早かったものだ。
ヒラモトさんはぴったり約束の時間に到着した。カッパを着ていたから途中で降られたらしい。

フェリー乗り場近くにあるいつものGSに寄り、給油をしていると、改めて「・・・いよいよ今年も始まるんだな」と、妙に気持ちが昂ぶってくる。

左好青年、右ヒラモトさん

フェリー乗り場で乗船手続きを済ませてMCに戻ると、CB750ボルドールのナンバーが3030なことに気付き、ホンダファンのヒラモトさんがオーナーの青年に、この数字と我々が深い関係にある旨の説明をしたところから話が盛り上がり、すっかり打ち解けて、寝台を予約していた青年は、結局それをキャンセルして我々と同じ船室で過ごすことになった。

今時珍しいこの好青年はカミムラさんといい、若いのに(失礼^^)礼儀をわきまえているのは勿論、MCやその周辺知識も確かなものだったから、20歳以上と思われる歳の差を感じない会話で楽しい船旅を過ごすことが出来た。そして二人の会話からは、改めてヒラモトさんが芯から底から熱烈なホンダファンであるということも再確認出来た。

今日の走行距離:238Km


道内の走行ルート

12日
小樽(4時半出発)⇒石狩R232⇒厚田村#11⇒青山ダム#28⇒R451新十津川町⇒ R275沼田⇒留萌⇒手塩町⇒サロベツ原野(オロロンライン)⇒稚内R238⇒沼川⇒猿払村⇒クッッチャロ湖⇒枝幸町⇒幌内⇒下川町⇒西興部村ホテル森夢泊。

13日
西興部村(9時出発)⇒滝上町⇒白滝村⇒丸瀬布町⇒女満別⇒網走⇒能取呂岬⇒斜里町⇒ウトロ⇒知床峠/Uターン⇒ウトロ⇒斜里町⇒川湯⇒秘密の農道⇒美幌⇒津別⇒津別峠テルフォレスター泊。

14日
津別峠(9時半出発)⇒津別⇒陸別⇒置戸⇒鹿の子ダム⇒足寄⇒本別⇒浦幌町⇒豊似⇒天馬街道⇒浦川町/Uターン⇒豊似⇒忠類村ナウマン温泉ホテルアルコ236泊。

15日
忠類村(9時出発)⇒芽室⇒狩勝峠⇒富良野⇒美瑛/Uターン⇒富良野⇒夕張⇒追分⇒苫小牧西港⇒苫小牧東港フェリー乗り場。


6月12日
ガラガラの船内で何をするということもなく、マッタリとしているうちに時間はあっけなく過ぎて、気がつけばもう朝になっていた。
窓には雨滴がついている。フェリーターミナルの駐車場には水溜りが出来、大粒の雨が落ちているのが船窓からも確認できる。

つい数日前の予報は晴れだった筈だ、ギリギリまで待って日程を調整したのに、選りによって雨の日を選んだかと思うと、自分がマヌケに思えて腹立たしい。

雨は走り出してしまえば、それはそれで趣があるし嫌いでは無いが、物の出し入れが思いっ切り面倒くさくなるのには参る。例えば写真を撮ろうにも、地図を確認しようにも・・・・そしてその都度水が浸水してくるからなお更だ。

雨でチェーンの油分が流れてしまうのは仕方ないとしても、万全の整備をしてきたつもりのSRXは走り出して間もなくエンジン不調(失火)に陥った。
購入してから雨天走行を経験していなかったから、この不調が雨に因るものだろうことは容易に想像出来たのだが、単純にハイテンション系のリークと決め付ける訳にもいかず、サイドスタンドのスイッチやクラッチ、キルスイッチその他まで、水の浸入による不具合の可能性を考えると、この先600Km以上の走行は難しいかもしれないと思った。

何度かストールを繰り返し、その都度辛うじて再始動できたのだが、R451の新十津川に向かう途中の山中でついに息の根が止まった。

路肩に停車するとヒラモトさんが心配そうに声を掛けてくれる。「雨に因るハイテンションのリークだろうから、熱で乾くまで少し待っていた方が良い」とのアドバイス。

購入した時から付いている非純正のノロジーコードには始めから不信感があって、イグニッションコイル直後で切断/接合されていたり、シリンダーヘッドを無駄に一周する程長かったり、プラグキャップの防水性にも難がありそうだと知っていたのに、何の対策もせずに長期間のツーリングに連れ出した自分はまだまだ未熟だと反省しきり。

しかしノロジーが原因と決め付けるのは早計かもしれない。プラグホールに前輪が跳ね上げた雨水が直撃する構造のSRXだからか、あるいは個体差で自分のSRXが特別雨に弱いのカモ?

暫く待って再始動を試みると、ヒラモトさんの予想通りあっけなく息を吹き返した。原因はやはり雨に因るハイテンション系のリークだったのだろう。それからは失火/ストールを繰り返しても、少し乾かせば暫くの間好調を取り戻せるので何とか走り続けることが出来た。

しかし、ボンヤリと原因が分かったとしても、ソロだったら数回ストールした時点でオロロンライン行きは断念しただろう。弱気になりかけた時に、やはり信頼できる友人の存在ほど心強いものはない。

R275雨竜町道の駅で大休止。まだ朝食は摂らず、沼田から達布を目指すも、かつて3回走ったことのある快適なワインディングは災害の為通行止め。仕方なくR233で留萌を目指す。もっとも通行できたとしても、ウエットでは心置きなく楽しめると言う訳にはいかないから、それ程がっかりはしなかった。

羽幌町のコンビニで遅い朝食を摂ってから、雨雲が低く垂れ込めて、誰の目にも快復の可能性皆無に見える大地と黒い雲の隙間に突入するべくMCに跨る。
途中で南下する小豆色のBMWR1150RTとすれ違ったが、後で藤原さんご夫妻だと知った。

単調な海岸線を走るR232を、強い横風と時々激しさを増す雨に翻弄されながら北上を続けるうちに、随分寒くなってきてきていることに気付く。気温の表示は7℃だ。
天塩からいつもの道道106に入ると風は更に強くなり、道沿いに立ち並んだ風力発電システムがフル稼働していた。

道々106の休憩所であずまや?にMCを避難させてトイレ休憩。でも横殴りの雨でとてもゆっくり休憩と言う訳にはいかない。後方に立ち並ぶのが風力発電システム。(写真提供:ヒラモトさん)

この辺りに来ると、レインカバーをしないブーツには雨が進入してタプタプ。グローブは最初からビチョビチョだから気にならないのだが、とにかく寒さで指先の感覚が鈍りそうになるから、時々左手はシリンダー周辺にあてて暖をとる。

右手はと言えば、強制開閉式キャブのスロットルバルブが張り付いてしまうせいか、スロットルグリップから手を離してもそのままの状態を維持してくれるので好都合(^^;、ナント右手も温められた。
その光景を後ろで観察していたヒラモトさんは、さぞかし不思議だったことだろう。翌日のドライ状態ではこういう現象は起きなかったから、湿気がスロットルバルブの摺動部分を凍らせたのかも知れないが、本当の原因は不明。

訪れるのが一週間早かったせいか、季節が遅れているせいか、いつもはエゾカンゾウやエゾスカシユリやハマナスが咲き乱れているのに、今年の道道106は花が皆無という荒涼とした雰囲気。でも冷たい雨と相俟って、これはこれで最北の地を走っている趣があってなかなかオツでもある。

稚内で昨年と同じラーメン屋さんで昼食にする。何時来ても美味しい。熱いラーメンで体が温まり、人心地ついたところで出発。
今年は計画当初から稚内空港の脇を通って猿払村に抜け、宗谷岬を迂回するつもりだったが、宗谷岬を通過するルートを予定していたとしても、あまりの寒さにパスしたことだろう。

内陸は海沿いにくらべてかなりマシだったが、猿払でオホーツク海側に出ると再び寒さに見舞われた。
寒さを避ける為に、本当は浜頓別からR275を南下し、道道を中頓別町、歌登町、下川町と内陸を走りたかったのだが、相変わらずエンジン不調のSRXでは山中が不安なので、そのままR238を南下し、小降りになった頃合を見計らって幌内から内陸に入った。

下川町に近づく頃にはかなり暖かいと感じるようになったのだが、気温の表示はナント6.5℃。それじゃ今まで寒いと思っていた時の気温は一体何度だったんだろう??。

西興部まで後僅かになると雨は小降りになり、雨雲の固まりも次第に小さく薄く散在するようになって、明日の天気に期待が持てるようになった。
光が力を失うのに反比例して気分は明るくなってきたゾ。

峠を越えると西興部村のイメージカラーだと思われる黄色と緑色の新しくて立派な建物が姿を現す。
道路脇に立ち並ぶこうした公共施設は、統一感があるといえばあるのだが、閑散とした村に似つかわしいかどうかは意見が分かれるところ。そのうちの一つ、ホテル森夢に到着したのは5時30分。

不調なMCにもかかわらず、無事計画に近いルートを走破出来たのは、ヒラモトさんに無言の励ましを受けていたからなのは言うまでも無い。ソロだったら間違いなく挫けていただろう・・・・感謝。

終日雨天走行と言うこともあり、精神的肉体的にかなりの疲労。軽く洗車し、夕食の後ロビーで談笑するも、強烈な睡魔に襲われて初日はあえなく爆睡。

今日の走行距離:658Km

6月13日

5時に目覚めたら爆睡の結果疲労は霧散。長年染み付いた習性で早速カーテンを開け、祈るような気持ちで外の様子を観察する。
日の出が一時間も早い北海道だとしても、こんな早朝から昼間のように明るいのは雨が止んでいる証だ。案の定道路は乾き、雲間からは青部分も覗いている。

朝から気分はゼッコーチョー!!(^^)

「路面が濡れていない」、というだけでこれ程幸せな気分になれるのだから「幸せだ」・・・ん・・・(^^;。
雨もまたヨシなんて強がっていても、やっぱり路面はドライに限る、そして欲を言えば青空。

濡れたブーツに新聞紙を突っ込んでいたのだが、これが驚くほどの吸水効果で、湿気は多少残っているものの実用には全く支障無いまでに乾いていた。

大雑把に荷物を整えMCの点検に降りて行くと、ヒラモトアドベンチュラーは既に洗車を終えて出発準備は備完了していた。

昨日の洗車時点では気が付かなかったが、SRXのネジやステー類が、点火系同様思いっ切り雨に弱いことを知った。
たった一日雨の中を走っただけで、数年間雨ざらしにされたホンダの(^^)MCの様なヤレ具合になっていて、これはクロームメッキを除く殆どのネジとステー類のメッキパーツが、ことごとく白く錆びていたのが主な原因。

リヤブレーキディスクのボルト

RC30やBMWは言うに及ばず、かつて乗っていたZZR1100やCBR1000F、CBR250RRではこんなことは無かったから大いに驚いてしまった。ヤマハの特徴なのか、SRXに限ってなのかは分からないが、ここではどうしようもないので、帰ってから徹底的に手入れしよう。

出発は9時少し前。乾いた路面に気を良くして快調なペースで先ず滝上町を目指す。
ここの公園の芝桜(ハナツメクサ)は有名なので、一度満開を見たかったのだが、過去に何回か訪れた内、そのいずれも時期が1〜2週間遅く、既に花は終わっていた。

ところが今年はどうやら満開に遭遇したらしい、山の斜面が見事なピンク色に染まっている。人為的とは言えその美しさや、むしろそれを維持管理する人々の努力に対しても感動した。

滝上公園

ここで給油し、R273を昨年同様浮島に向けて走る。
浮島峠方面の雲行きがとても怪しい雰囲気になってきた。前方と左右の雲は明らかに雨雲だ。実際パラパラと雨粒が落ちてきたり、路面も雨上がり直後のような状態だったりする。なんだか昨年も似たような感じだった気がするナ〜。

雨粒がけっこう落ちて来た時に、タイミング良く浮島峠の直下にある全長3Kmほどの長いトンネルに逃げ込むように入った。頭上の雨雲が出口で待ち構えていないことを祈りつつ走る。

外に出ると幸い路面は乾いていた。しかし怪しい雨雲は相変わらず周囲に存在する。
R273とR333の分岐を左折し、白滝町に向かう北見峠のワインディングを楽しむ予定だったのだが、そちらは明らかに雨の予感。
ヒラモトさんの「自動車専用道路を使おう」の一言で、躊躇無く白滝まで完成している旭川紋別自動車道路に乗る。

浮島IC手前にて

上った途端、案の定既に強い降りが始まりかけていて、しかしそれも束の間、運良く再びトンネルに突入して雨を避けることが出来た。
長いトンネルを抜けると雨は止んでおり、路面は直前まで強く降っていたことを覗わせたが、前方の空は明るさを増し、所々青空も出ていた。
つまり・・・・我々の行動は、はからずも絶妙なタイミングで行われていたということになる。早過ぎても遅過ぎても、雨に見舞われたことだろう。

白滝から丸瀬布/遠軽までは、JR石北本線に沿って淡々と走るだけなのだが、途中の無人駅はなかなか趣がある。
R333をそのまま進み、端野町でR39に合流して網走に向かう途中、女満別の道の駅で昼食にする。「メルヘンの丘めまんべつ」と言うだけあってロケーションが良い。

しかし、ちゃんとしたレストランが無いので、駅舎の周りに何店かある屋台風の出店でラーメンを食べた。
昨日に続いて今日もラーメンだったのだが、お店の様子からして味は期待していなかったのに、予想に反してこれまた美味しかった。

「メルヘンの丘めまんべつ」はこんな感じ(^^) 写真提供:ヒラモトさん

ここまでは何とか雨を避けるように走ってきたのだが、昼食を摂っている間に青空が広がっていて気分はゼッコーチョー。一路今日の目的地の一つである能取岬を目指す。

能取岬

海に向かって下るたった一本の道は、やはりなんとも表現のし難い風情を醸し出していた。
岬の空は曇っていたし、草原も冬枯れから漸く緑色に変わろうとする時期だったから、以前訪れた時とは随分趣が違っていた。
しかし此処は、最初の出会いの時に感じたのと同様、相変わらず子供の頃の懐かしい時間が流れている気がした。

引き返して網走で給油し、オホーツク海と小清水原生花園を左手に眺めながら知床を目指す。
この原生花園も時期さえ適当なら、エゾカンゾウの鮮やかな黄色とハマナスの濃いピンク×紫色に埋め尽くされているのに遭遇するのだが、今回花類はこれっぽっちも咲いていなかった。

予定では斜里からそのままR244を標津に向かい、知床半島を反時計回りに周って、羅臼から知床峠へ上るワインディングを楽しむ筈だったのだが、知床半島の付け根にあたる海別岳と斜里岳の間を抜けるR244の方角は、スッポリと雨雲に覆われていて、誰の目からもその下がドシャ降りなのは明らか。

で、美味しいワインディングは諦めて、R334をウトロに向かい、そこから知床峠を目指すことにした。
幸いオホーツク海側は陽が射す程晴れてきたこともあり、気温もほど良く上昇して久々に爽快な速度域でモーターサイクルライディングを楽しんだ。物凄く幸せな気分だ。

ウトロからは登り勾配がきつく、しかも大きなRや直線が主だから、非力なSRXでは全開にしても楽しめる速度までは達しない。安全と言えば安全だし、通常の道では必要充分なパワーを持っていることに違いは無いのだが、ここに限れば、やはり贅沢にもパワー不足をかこってしまう。

峠に辿り着くと羅臼側は濃いガスに覆われていて視程5mと言ったところ。
ここから羅臼までの往復を楽しみに登ってきたのだが、周囲の様子が全く見えないこのガスでは楽しむどころではないし、長居は無用。仮設のトイレで用を足してサッサと退散した。

再びウトロに向けて今度はヒラモトさんが先導する。
何の変哲も無く、むしろレトロでモッサリとした部類に属するアドベンチュラーなのに、手練にかかるとこうも活き活きと走るものだろうか?と考え込んでしまう程、軽快且つ安定してコーナーをクリアしていく。

それは例えば3気筒ユニットが発する「パルルン/ヒュルルン」と言った、決して大きくは無いが独特の小気味良いエグゾーストノートを発するキャブトンマフラーが、何時接地してもおかしくない程深いバンク角に一気に持ち込んで、「クルッ」と向きを変えてしまう走り方だからだ。
もっともヒラモトさんの主力機種はRC30だし、どちらかといえばスプリントを得意としているから当然といえば当然なんだけど、それにしても・・・・(・・;。

羅臼⇔知床峠のワインディングを昨年は雨で断念したのに続き、今年もそれは叶わなかったが、目の前のアドベンチュラーを見ていると、箱根での走りっぷりを知っているだけに、この極上の峠道は是非経験して欲しかった。羅臼岳や残雪や新緑を楽しみながら、澄んだ空気だからこそ出せる深く蒼い空の下で。

700m以上の標高差をウトロに向かって一気に下っていると、高校生の頃チビリそうになりながら滑った、長い尾根筋から日陰ゲレンデに落ちていく野沢温泉スキー場の旧ダウンヒルコースを思い出した。
気圧の急激な変化で耳が痛くなる程の急降下は、此処以外ではあまり経験出来ないだろう。大抵はタイトなワインディングが相場だから降下に時間が掛かる。

高台から眼下に眺めるウトロ港とその周辺の景色は、濃い緑色の海と、点在する名の有りそうな大きな岩々と相俟ってなかなか壮観だ。例によって観光している時間は無いから先を急ぐ。
豪快に流れ落ちるオシンコシンの滝は人気らしく、観光バスや乗用車で賑わっていたが、ここも何の抵抗も無くパス。

斜里に近づくと又雨が落ちてきた。
道々からR391に抜け、野上峠を下って川湯から藻琴山に上り、今日最後のハイライト「秘密の農道」に向かう。
藻琴山のワインディングは、例によって屈斜路湖から湧き上がる濃い霧に覆われていて、楽しめたのは下部だけだったから、「秘密の農道」には思いっ切期待していたのだが、はたして視界が良好なだけでなく、青空まで出ていたのだった(^^)

しか〜し、運が良かったと言うかついていないと言うか、雨が止んでからそう時間経っているとは思えない道路には、ウエットパッチが点在していて満足には攻め切れなかった・・・・・オイオイ・・・(^^;が、改めて鈴鹿2周分の「超々極上ワインディング」だということを再確認した。

「秘密の農道」のほんの触り

多少不完全燃焼・・・でもやっぱり満足した「秘密の農道」からR243に出た。
本当は美幌峠を越えて屈斜路湖に下り、再び津別峠を越えるルートが最良なのだが、津別峠が拡幅工事の為に通行止めなので、今回は残念ながら美幌から津別を周ってホテルに向かった。しかし狭くても充分楽しいあの津別峠が拡幅されれば、相当エキサイティングなワインディングになるんだろうな。

背後から射す夕日は、時々MCの進行方向にシンクロして前方に長い影を落とすから、まるで太陽に背中を押されているような不思議な気分になる。

静寂な森の中に一軒だけある洒落たホテルは津別町の厚生施設。町営だからと言ってこのホテルに手抜きは一切無い。お風呂から食事からお部屋からロケーションから接客まで、まさにウエルバランス。快適だから昨年までは2泊することもあった。

到着するとすかさず係りの人が現れて、MCを軒下に誘導してくれた。嬉しい配慮だ。他の公共の宿は2度目に訪れるとがっかりすることも珍しくないのに、フォレスターは次第に完成度を増している感じがする。

夕食は、ありきたりの表現をすれば、地元の食材と新鮮な海の幸をたっぷり過ぎるほど使い、美味しく召し上がって頂きたいと、心を込めて料理している様子が伝わってくるというもので当然大満足。
大型旅館の一見豪華そうに見える、良く出来た業務用レトルト食品のオンパレードとは訳が違う。こういう雰囲気だと、普段は飲まないビールも美味しく頂けちゃうから不思議だ。

泊り客は我々を含めて3組5名きりだったから、静寂を心から楽しめたのは勿論、今日一日の感想やモーターサイクルについて、マッタリとした時間の流れに揺られながら語り合うことが出来た。そしてそれは人生に大きく係わっているから、詰まるところ生き方にまで言及するハメになるのだが・・・至福の時とはまさにこういうことを言うのだろう。

肝心のSRXは昨日の不調がウソのように絶好調だった。

今日の走行距離:525Km


6月14日
目覚めるとヒラモトさんが居ない。
例によって早速外の様子を観察すると、雲っているが雨は降っていない。案の定駐車場には既にアドベンチュラーが引き出されていて、ヒラモトさんの準備の周到さが窺える。

ホテル フォレスター

予報では今日から快方に向かうらしいので、この雲もそのうち取れるのだろう。文字通り貸切の露天風呂で朝からマッタリとした時間を過ごした後、夕食同様心のこもった朝食を頂き、9時前には出発した。

津別からは、昨年行けなかったチミケップ湖を目指したのだが、うっかり入り口を通り過ぎてしまい、二又から入った道は途中でダートに変わってしまったのであえなく今年も断念。

本当はチミケップ湖→訓子府→置戸を通って鹿の子ダムから#88を本別に抜ける予定だったのだが、仕方なく陸別からR242を北上した。しかし、これは今まで漠然としか知らなかった北海道の現状を、その一部分ではあっても垣間見ることが出来たという点で、結果的には正解だった。そしてその印象は自分にとってかなりヘビーなものでもあった。

R242は、18年前に一度だけ家内と足寄から留辺蕊まで走っているのだが、陸別を過ぎた辺りの何処かでRC30を全開にしたという以外、道路はもとより景色の印象まで全く記憶に残っていなかった。もっとも18年と言う歳月は全てを大きく変えるに充分過ぎる時間だから、無理も無いとは思う。

案の定、当時RC30を全開に出来たのもうなずける光景が展開していたのと同時に、ふるさと銀河線が並走する線路脇の集落には、明らかに何らかの異変が起きている(起きた)ことを窺わせた。気分が滅入るという意味で。


陸別から置戸まで、約32Kmの間に出合った車は10台以下。ワインディングと云えるコーナーは無いが、高原の原生林を縫って走る爽快なR242は、池北峠付近でその超快適度が最高潮に達し、久々に「マジッスカ〜(^^)」というフレーズを思い出させた。

湖と名が付くと、行って見たくなるのは人情?(^^)というもので、置戸で左折し、鹿の子ダムで出来た「おけと湖」に向かった。ダムサイトは整備されており、勿論キャンプ場も同様。

鹿の子ダムで物思いに耽る(^^)ヒラモトさん:

景色はそれなりに良いのだが、よっぽど何かの理由(例えば釣りや山菜取りや紅葉狩り)が無ければ、わざわざ立ち寄るまでもない場所かもしれない。

引き返して道々88を本別に向かう。
一度はこの道を走ってみたいと思っていたのだが、R273とR242の丁度真ん中を並行に通っていて、しかもそのどれもがR38から足寄や上士幌方面に南下する道だから、通常のツーリングを計画する場合には道々88をルートに組み込むことはまず考えられない。

その道々88は、はたして期待を裏切ることはなかった。
此処も原生林の森の中に、適度なアップダウンと曲率を描いた立派な道路が整備されていて、部分的には高速道路並と思われる程だった。
車は例によって皆無に等しく、「快適」なんて言葉で済ます訳にはいかないが、何度も走っているR273のガラガラ度といい今日のR242といい、そしてこの道々88・・・・。

一日に数台か数十台か知らないが、いずれにしても僅かな台数の通行の為に、単に造るだけではなく路肩の草刈をはじめとする、様々な維持管理に係わる費用の額を想像するだけで恐ろしくなるのだ。
ニュースで増税関連の話が取り上げられる度に、こういった極上の道路のことを思い出すんだろうな。

もうこの地では道の必要性とか整備の云々・・・・とか、ましてやコストパフォーマンスについての議論なんかは何の意味も持たないのかもしれない。ただひたすら造り、改良工事を続けることこそが正義であり重要なのだろう。それはふるさと銀河線沿いに点在していた廃墟からも推測できる。

しかし、現実には目一杯その恩恵に与かって極上のツーリングを愉しんでいるモーターサイクリストがいる訳だから、そういう使われ方をしてこそ、ゼーキンも生きるのだと思う・・・・ホンマカイナ(−−;

とユーことで、2桁国道は言うに及ばず1桁国道でさえマッツオな#88を南下し、足寄湖に出てから本別に向かう。
本別では以前2回利用したことのある、それこそチョー小汚いラーメン屋さん「赤蝦夷」で、今回のツーリングの昼食では3連続となるラーメンを頂いた。
稚内のラーメン屋さんの名前を、昨年のリポートでは「赤蝦夷」と書いてしまったが、正しくは「大将」。どちらも優劣付け難い美味しさ。

此処からは#56で浦幌に出てR336を豊似に向かう。
浦幌町は真新しい公共施設が整備されていたりして、かつて訪れた時と比べ、町並みはすっかり様変わりしていた。
随分前に、クマさんと中村さんの3人で来た時に、この町にあったセブンイレブンの駐車場を借りて、充電不良で不調のCBXをクマさんが修理したことを思い出した。

隣にあった金物屋さんでワッシャーを買い、それをオルタネーターのブラシホルダーにカマせて、磨り減ったブラシを一時的にカサ上げするというものだった。

脱着は勿論、不具合の原因と問題解決に必要なパーツ、その調達と修理等々一連の段取りと作業が、流れるような手際の良さで行われていくのに驚いたことを今でも覚えている。

押し掛けでしのぎ切ろうとしていたクマさんの葛藤はよく分かるから「申し訳ないけど修理したいから45分時間を下さい」とツーリングの最中に言い出すのは余程のことだったのだろう、結局修理完了まで30分も掛からなかった。
道は変わっていないのに、そのコンビにも金物屋さんも今回は見つけることが出来なかった。


浦幌からのR336は再び車皆無状態になって、豊似に向けて南下するとすぐに十勝川に架かる「とかちかこうきょう」が現れる。

この橋は2003年の9月26日に発生した十勝沖地震で橋桁が落下していて、その様子を上空から撮影した写真を新聞で見た時には、ついこの間渡ったばかり(6月25日)だったから、にわかには信じ難い光景に我が目を疑った。
そしてこの年はご丁寧にも9月17と18日に再びソロで北海道を訪れていたから、もし地震発生時に「この橋を渡っていたら」と、考えただけでゾッとしたものだ。

写真では大破している様に見えたから、素人目には橋桁の修理は難しいだろう(新しく作り直すのだろう)と思っていたのだが、ナント!実際には損傷した部分を修理して再使用しているみたいだった。
それにしても、落下した巨大な橋桁を橋脚に戻すのはどんな作業だったんだろうと思うと実に興味深い。

とかちかこうきょう:落下した際に破損したと思われる部分の舗装が新しい。

釧路湿原にも似た景色と、オロロンラインにアップダウンとカーブを混ぜたような極上の道は相変わらずだったが、地震の痕跡は道路のウネリとして所々に見受けられた。

’03に訪れた時も湿地帯を通る道ということもありウネリはあったものの、R1100SでのぬゆわKm/hはそう無謀な速度と言う訳ではなかった。
しかし今回は80〜90Km/hが快適な速度域のSRXだったにもかかわらず、ウネリは気になった(面白かったと言えなくも無い^^)から、仮にR1100Sで来たとしても、とてもぬゆわKm/hでの巡航は難しかっただろう。

この辺りは内陸の峠越えに雨の心配をしたり、実際パラついてヒヤヒヤしたのとはとうって変わって快晴に恵まれた。
但し太平洋上の寒気に因るものかどうかは定かでは無いが、海上にはガスが発生していて、これが近くに来るととても寒い。

進行方向の空や緑は勿論清々しくて、乾いて冷たい空気と相俟って心も身体も洗われているような錯覚に陥るのだが、バックミラーには更に数倍の透明感とコントラストで景色が映し出されるから、つい何度も後ろを振り返ってしまう。

同系色と思っていた緑色と青色がスカイラインを隔ててこれ程まで強烈にお互いを主張する光景を見たのは多分初めてかもしれない。道路の灰色はあるにせよ、たった2色で塗りつぶされた様はまさに異次元空間と言ったところ。

清々しいレベルを通り越して緑と青の圧倒的な迫力に息苦しくなりかけた頃に豊似に到着した。
このまま今日の宿泊地忠類村に向かうのは早過ぎるので、ヒラモトさんに浦川町往復を提案するとすんなりOK(^^)。

襟裳岬を回るルートは黄金道路で潮気を浴びたくないのと’03に訪れた時の岬の印象があまり好ましいものでは無かったと言う理由で却下(^^)された訳ではなく、時間的に無理だったから迷わず天馬街道と呼ばれるR236を選択した。
1997年に開通したばかりの新しい道で当然北海道クオリティー(^^)、とは言っても往復で140Km位あるから、北海道と云えども単純計算で2時間以上は掛かる。

浦川には競走馬の牧場が沢山あって、サラブレッド(多分^^)が走ったりのんびり草を食んでいる様子を見ることができた。競馬のことは全く知らない私でも走っている姿は実に美しいと感じたから、つい見惚れて時間が過ぎるのを忘れてしまいそうだった。
もしかしたら名のある馬だったのかもしれない。

この馬達が時々走って見せてくれた:

Uターンして再び天馬街道を野塚峠に向けて走り出すと、一昨年R1100Sで来た時と比べ随分コーナーのRが大きく感じられた。多分MCを深く寝かせる必要が無いほど速度が乗らないからなのだろうがしかし、この峠の登り40Kmは今度のツーリングにあえて単気筒を選んだことの意味を、具体的な感触で理解させてくれたような気がする。

”にわか”シングルファンには巷で耳にする単気筒の”味”なんか分かる筈も無かったし、実際ここまでは「なんとなく面白い」程度で、昨年のような不測の事態が発生した時の遁走能力にいたっては絶望的だから、いきおいおとなしいライディングに終始することになる。

それに北海道の様な平坦でコーナーも少ない道路ではスロットルの開閉頻度が少ないのは当然として、開度も小さく且つ殆ど微調整程度だし、しかもバランサー付きのSRXでは大きな振動が無いかわりに、所謂”鼓動”と言うよりは終始”雑味”のある回り方に感じていたから、なお更”シングルの味”については???。

ところが、ここにきて遅まきながらシングルのシングルたる所以を実感したのだった。
野塚峠への登り勾配や曲率半径がSRXのギヤレシオやパワーに偶然合っていたのかどうかは知る由も無いが、コーナー進入時のエンジンブレーキのみの減速から、倒し込みながらスロットルを開けていった時の歯切れの良い振動は、平坦路を淡々と走っている時に感じた雑味とは無縁のクリーンな燃焼の連続に感じたし、しかもその燃焼の一つずつがしっかり旋回に係わっている感じがした。つまりスロットルワークだけで旋回半径をコントロールしているような気分になれたからだ。

こういう傾向はマルチでも勿論感じることなのだが、SRXほど明確に反応するとやはり面白いし愉しい。
タイトなワインディングでは軽量コンパクトなシングルならではの機敏な運動性ばかりが目立ち、時としてフラつく程のそれはそれで長所なのだが、曲率半径の大きな上り坂をそれなりの荷重が掛かる速度で走っても、軽量でしかもスリムなくせに妙に落ち着いた態度で安定して旋回するのには感心した。

パワーが無いからスロットルを大きく開けてもそれ程加速しないのだが、一回燃焼毎に押し出される感じに加えてその都度向きが変る感触は確かにあって、勿論心地良いし愉しいものだったから「これがシングルの鼓動と味カモ?」と勝手に結論してしまった。

天馬街道を往復して忠類村のナウマン象が発掘されたと言う場所にある「ナウマン温泉ホテルアルコ236」に辿り着いたのは5時30分頃。隣にはナウマン像の博物館があるのだが、飾ってあるのは本物の1/2のレプリカなので見に行かない(^^)

以前訪れた時と建物も食事も変わっておらず、その内容はとても満足出来るものだった。特に従業員の対応は初々しいというか素朴というか慣れていないというか(^^)、実にアットホームで好感の持てるものだった。

長い野塚トンネルは路面が濡れていてしかもひどく汚れていたから、初日の雨でもそれ程汚れなかったエンジン周りが文字通り真っ黒に変色してしまった。
墨の様な黒色は、もしかすると冬場に撒かれた塩の可能性もあるので、軽く拭き掃除をしてからお風呂に入り、食べ切れないほどの美味しい食事をご馳走になって北海道最後の夜は更けていくのだった(^^)

今日もたっぷり走ったしたっぷり食べた・・・・満足満足。

今日の走行距離:465Km



6月15日

いよいよ今日で最終日、ヒラモトさんは例によって早起き。昨日のトンネルで悲惨な状態になったアドベンチュラーは何事も無かったようにピカピカに磨き上げられて出発の時を待っていた。
つられて昨日落とし切れなかった空冷SRXの汚れを再度拭き取ろうとしたのだが、水とウエスだけでは推して知るべしの仕上がり。

ホテル入り口横の駐車場:屋根無し(^^)

このホテルは村営だと思われるが、中も外も全てに設計者の遊び心と余裕が感じられて建設費が思いっ切り(^^;潤沢だったことを窺わせる。

デザインが優先するあまり、客室をはじめとする本来の宿としての使い勝手の部分にやや難がある(コスト配分にも)ことからも、旅館やホテルを得意とする設計者ではなかったのだろう。しかしコンクリート打ちっ放しと矩形を基調としたクールな建築は近代美術館的でとても面白いと思った。
こういう設計は民間の宿ではまず絶対にしない(出来ない・・;)と思われるだけに、宿泊施設の新たな可能性を示した問題作とも言える・・・・マジ(^^)。

快適に過ごせたのはスタッフのホスピタリティーに因るのは当然としても、食事はこれまた朝から豪勢で大満足。朝靄の中を8時半に出発した。

中札内からは帯広を避けて道々を芽室に抜ける。
この辺りの道は畑の中を通っていて、その両側に展開する景色は美瑛や中標津と共に人工でありながら、うっかりすると全くの自然と勘違いしてしまいそうな程・・・・と言うかむしろ整然としているだけに見方によってはそれ以上に美しい絵画のようだ。

自然に見えるけど全てに人の手が入っていると言う点では結局何処の農地も同じなのだが、しかし北海道ならではの地形と圧倒的な広さは、やはり非日常の風景の中に居るという感を強くする。

何かの理由があったのだろう、意図的に残されたと思われる原生林の名残が点在していることから、此処がその昔一面の深い森だったことを容易に想像させるのだが、大木の一本一本を取り除くことから始まって、この広大な農地が殆ど人力によって開墾されたのかと思うと、過酷さは容易に理解できるとしても、そのパイオニアスピリッツとはいったい如何なるものだったのだろうと考え込んでしまう。
あまりにも圧倒的で絶望的な広さゆえに、想いを馳せようにもただただ畏敬の念のみが満ちてきて思考が停止してしまう始末。

ボーっとなりかけた頃R38に合流した。
清水町の丁度R274の交差点にさしかかった時、対向車線に見覚えのあるモーターサイクルCB570ボルドールを発見した。
ヒラモトさんは勿論自分も”あの”好青年だと確信した。合図をするとはたしてボルドールはUターンして我々に向かってきた。

清水町:CB750ボルドールの好青年と

彼も今晩出航する室蘭発直江津行きフェリーで北海道を後にするらしいのだが、ここ数日の走行ルートや感想について軽く言葉交わした後、お互いの無事を祈って別れた。

狩勝峠までは気温も低く曇っていたが、峠を越えると一転して快晴で暑い程だ。先程の好青年が「富良野は快晴で暑いです」と言っていた通りだ。

富良野市街の東にある「東九線」から「斜線道路」を通って富良野市街をバイパスし、上富良野でR237に合流して美瑛に向かう。
この「東九線」は路面状態こそ悪いものの、今回の北海道では最長の直線道路だった。

美瑛の丘の畑にはまだ作物が植えられていなかったりして、やはり訪れるのが早過ぎたことを実感する。
ここが初めてのヒラモトさんをお決まりのセブンスターの丘に案内して、人間の欲が如何に景色を台無しにしてしまうかという好例を見てもらう(^^)。とは言っても個人の持ち物だから本当は文句言えないのだが・・・・。

それでも、やっぱり美瑛の丘陵地帯は北海道で2番目に好きな場所に変わりは無いから、本当は此処に1〜2日は滞在して、気に入った風景が見つかるまでロケーションハンティングをしたいと思う。



セブンスターの木とSRX:

正午も大分過ぎたことだし、ヒラモトさんに昼食の相談をしたらフェリーの出航時刻に余裕をもって到着していたいので、「目処がつく辺りまで走ってからにしましょう」とのこと、全く同感。
ソロだったら昼食抜きは珍しくないし、今日みたいに乗り物の時間が決まっている日はなお更で、安全圏に入るまではマッタリと食事を摂る気にはならないから、連日の以心伝心的走行ペースといい、この点でもヒラモトさんとはストレス皆無のツーリングが行われていると思った。

R237を富良野に引き返し、美唄富良野線からR452に出る。
富良野から桂沢湖を渡り夕張までの約80Km区間は、既に北海道の匂いは希薄になって、ありふれた山間の景色に変わっていたが、どっこい(^^)このR452は道内のエピローグを飾るにふさわしい極上のワインディングだった。

過去3回走っているうちのいずれもがウエットだったから、今回はじめてチャンと走れた訳で、その都度「乾いていたらさぞかし愉しいだろうな」という念願が叶ったのは勿論、期待を遥かに上回る面白さと気持ちよさだったから大満足。

そんなペース・・・(どんな?^^;で走ったら、予定より随分早く苫小牧に到着してしまった。
今回ばかりは留守をこなしてくれている仕事仲間にお土産を買っていかなくてはならないし、お土産と言えば限られた所でしか手に入らない「○○亭のバターサンド」という刷り込みがあるから、そのことをヒラモトさんに話すと昨年使った大洗行きフェリー乗り場のある苫小牧西港のフェリーターミナルに置いてあったような気がするとのこと。

我々は苫小牧の市街地からはかなり離れた苫小牧東港から新潟行きフェリーに乗るのだが、そこに「バターサンド」が置いてないのは確認済み(^^)なので、逆方向にある西港に向かう。

いつも不思議に感じるのは市街地に入って車が増え、R36が片側4車線の広い道路になった途端、周囲の車の走行速度がいきなり上昇することだ。特に信号待ちからのスタートでは全車全開状態で先を争うように走っている。
皆さんよっぽど忙しいんだろうな・・・・と言うか街に入ったら忙しいような気分になるんだろうか?、殺気立っていて正直恐い。

はじめて訪れた西港のフェリーターミナルは、さすがに太平洋側航路だけあって賑やかな感じがする。
昨年も感心したのだが、ヒラモトさんの観察力の凄さには舌を巻く。はたして「バターサンド」は置いてあり、ヒラモトさんも同じものをお土産にしたから、我々二人だけで売り切れになった。

小さい割りにズシリと重い「バターサンド」をパッキングして東港に向かうと、港の入り口にある信号で再びフェリーターミナルからこちらに向かって来るボルドールを発見、今朝清水町で逢った彼に違いない。

我々を見つけるとUターンしてフェリー乗り場に引き返して行った。彼が乗船するフェリーは室蘭発の直江津行きだと聞いていたから急遽変更したのかもしれない。フェリー乗り場に到着するとやはりあの好青年だった。

ここに来たのは途中で知り合った人がこのフェリーに乗るそうなので、深夜出航の直江津行きフェリー乗船にはまだたっぷり時間があるから、それまでの暇つぶしに立ち寄ったらしい。
しかしその相手の彼はなかなか現れず、結局我々と1時間ほど話してから室蘭に向かった。

苫小牧東港

手続きを済ませると、待つ間も無く乗船が始まった。
これで暫く北海道ともお別れかと思うと感傷的になるがそれも束の間、紅葉山のコンビニで軽く食べていたとは云え、かなりお腹が空いていたから早速レストランで夕食にした。しかし相変わらずコストパフォーマンスが悪いな(^^)。

今回は道内4日間と短かったせいか疲労した感じは無くて、今日も普通の一日が終わったといったところ。船室ではヒラモトさんと今回のツーリングについての総括(^^)をしたりして、いつもと同じ船旅が始まった。
尽きない筈の話がジワリと襲ってきた睡魔によって、いつしか中断していたことに気が付いたのは迂闊にも明朝だった(^^)。やはりそれなりの疲れがあったのだろう。

今日の走行距離:407Km

6月15日

目覚めたのは案外早く6時頃か?その後もウダウダとしていて本格的に起床したのは8時を過ぎていた。
もっとも今日は午後3時まで何もすることがないから寝ていても良いんだけど、一応お決まりの朝食に行きその後後部デッキでマッタリとした時間を過ごした。

昨日の予報とは違い好天に恵まれたクルージングで気分は最高なのだが、これが北海道上陸初日に順番がまわっていたらな〜と、この期に及んでも未練たらしく考えてしまうのだ(^^)。
デッキにあったから文字通りデッキチェアー(笑)を引っ張り出してヒラモトさんと昨夜の続き、それこそ尽きない話が始まった。それが子守唄の様でもあり再びウトウトしてくると、此処には極上の時間が流れていることを知る。
 
こういう状況ってやっぱり幸せな時間と言う以外無いんだろうな

船が秋田港に接岸すると、昨年の夏ホサカ氏とヨダダヨ両氏と宿泊したホテルが見えた。
到着したのが夜で周囲の様子がわからなかったし、ましてや仕切りのホサカ氏にオンブにダッコだったから、「ルートイン秋田」が何処にあるのかなんて考えもしなかった。
船上から「もしかしてあれは?」が当たってしまって、こんな所にあったのかと思ったら、一度しか利用していないのに何だか妙に親近感が湧いてきて、その時のツーリングの様子を思い出したのは勿論だが、異国で思い掛けなく知人に遇ったような気分になった。

左端の建物が「ルートイン秋田」。宿泊に機能性のみを求めるのであれば、リーズナブルで納得のホテル。


そんなこんなでヒラモトさんとマッタリとした船旅を楽しみながらツーリングのデータを整理していたら、念願だった道内一日平均500Km以上が達成されていて、初日に距離を稼いだにしてもこれはこれで嬉しい記録になった。

船が新潟港に入港すると、いつも感じる旅の終わりの寂寥感みたいなものに襲われるのだが、北海道とは当分の間距離をおこうと決めたからか二人旅だったからか、今回は特にそんな感じが強い。

雨だったら北陸道を使うつもりだったが幸いその心配が無いので、ヒラモトさんとは高速の入り口で別れ日本海夕日ラインを南西に向かった。
5時を過ぎても夕日と言うにはまだ白色でその位置も高過ぎると思っていた太陽が、次に雲間から覗いた時にはすでに充分な赤みを帯びていて、凪いだ海面に反射する様がこの道を選んだことが正解だったことを教えてくれる。

夕日に染まる海が感動的なのは言うまでも無いが、黄昏向かって走っていると「終わったな」というフレーズの登場回数が何だかいつにも増して多く、日が沈む間際の速さに驚くのも束の間、空が色を失うのと同時に気分は急激にブルーになって参ったゾ(^^)。
帰宅は8時。初日にトラブルはあったものの、今年も無事北海道ツーリングは終わった。


今日の走行距離:237Km

記録:

道内走行距離:2055Km
全走行距離  :2530Km
ガソリン消費量 :89.8L
平均燃費   :28.2Km/L


当分の間、北海道は走り収めのつもりで行った今回のツーリングに、クマさんが居ないのは寂しかったが、お互いの性格も走り方も知り尽くしたヒラモトさんとのコンビは、絶対の信頼感に支えられて・・・・自分のことだけ心配していれば良いという意味で・・・・まるでソロツーリングのような気楽さだった。

気の向くままに走り、気の向くままに休み、気持ちの良いペースでワインディングを楽しみ、それこそ好き勝手に走り回っていたのに、時々確認するバックミラーにはヒラモト+アドベンチュラーが常に同じ大きさで映っていた。

勿論彼が合わせてくれていたのは言うまでも無いが、それはガソリンスタンドでも同様で、ハイオクのアドベンチュラーとレギュラーのSRXは給油作業がほぼ同時に進行するから、時間の無駄もストレスも無く、まるでソロツーリングが並行して行われている感じだった。言ってみれば「シンクロナイズドツーリング」か?(^^)

行動の内容がソロであっても、感動を分かち合え信頼できる友とは常に一緒だから、安心感に包まれた心地良いツーリングになった。これは「プロたい」でも感じたものだ。

またいつの日か必ず訪れるだろう「試される大地なんかじゃない」北海道は、一体どんなふうに変わっているのだろう。
シリンダーのフィンにこびりついた頑固で特徴的な北の汚れを落としていると、21回を数えたその一つ一つの想い出が鮮明に蘇ってきて、ガラにもなくセンチメンタルになってしまった。
色々なことを教えられ考えさせてくれた北の大地に心から「ありがとう」と言いたい。

おしまい