長野市北西の飯綱火山の麓、長野市と牟礼村の境に、逆谷地(さかさやち)という
ミズゴケに覆われた湿原があります。有名な尾瀬ヶ原や北海道の釧路湿原にくらべる
と、 面積約4ヘクタールというちっぽけな湿原です。飯綱山麓に湿地はたくさんあり
ますが、湿原はごくわずかしかありません。湿原というのは、泥炭と呼ばれる植物遺
体の上に発達した草原のことです。そこは乾燥が進めばたちまち普通の草原や樹林に
変わり、逆に水が多すぎると池や湖になってしまい、湿原は消えてしまいます。つま
り湿原は、水分条件がちょうどよいぎりぎりの環境が保たれてはじめて成立する、と
てもデリケートな自然の姿といえます。
 ところで、世界中の湿原(泥炭地)の大部分は氷河期が終わった約 1万年前以降に
形成されたといわれます。前述の尾瀬ヶ原は約9000年前、釧路湿原は約3000年前にで
きたものです。ところが逆谷地湿原では、ボーリング調査をしたところ13m地下まで
泥炭を主とした地層がたまっており、なんと10万年も前から湿原だったことがわかり
ました。逆谷地湿原は、面積は小さいけれども、非常に歴史が古く、しかも今日まで
ずっと生きつづけてきた、きわめて特異な湿原なのです。
 この湿原の存在と価値が一般に知られるようになったのは、つい最近のことです。
そのきっかけは、近くに計画されたゴルフ場の環境アセスメント調査が最初でした。
それ以後、湿原に関する研究が進むとともに、市や村、ゴルフ場の関係者の方々など
の協力があり、2000年3月には県の自然環境保全地域に指定されました。その年の秋
には市が木道と展望台を整備し、今では誰でも気軽に観察ができるようになりました。
5月から6月にかけては、次々と花開く植物や野鳥の姿など一年中で最も美しく湿原
が姿を変えてゆく季節です。飯綱高原に残された貴重な自然とそこに秘められた歴史
を静かに味わってみませんか。

地学団体研究会 長野支部 長野県自然保護研究所研究員 富樫 均
ミツガシワの咲く頃(5月中旬)
逆谷地湿原
「太古の歴史を秘めた逆谷地湿原」

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