高校生のラッキーな体験

 注・・・はっきり言って自慢話です。
    自慢話に付き合ってくださる心の広い方のみ、どうぞお読みください(笑)。

 音楽を学ぶ人生を歩んでおられる多くの読者の皆さんも、きっと様々なすばらしい体験をなさっていることと思います。が、田舎に住み、お金もないとなると、なかなかそんな機会はありません。
 しかし高校生時代、田舎ゆえに得られた思い出に残るすばらしい出来事がいくつかありました。ウィーンフィルのフルート奏者ヴェルナー・トリップさんのレッスンをたまたま受ける機会があったのも、その中の特筆すべきこと。それからなぜか高校の音楽鑑賞会で佐藤しのぶさんの歌を聴くことができ、楽屋でお話したりしたことも、なかなか出来ないラッキーな体験です。
 でも自慢話はそんなことではありません。
 
 あれは高3の夏も終りに近いある日。
 私の住む、ここ飯田から、東の山へどんどん入り、一山越えた谷に、大鹿村という、古くから村民で歌舞伎をする伝統のある村があります。そこの歌舞伎の野外舞台で、なんと小澤征爾さんが、桐朋の4年生を引き連れて、チェリストのロストロポーヴィッチさんも加わりコンサートをする、という噂を聞きました。
 何でも、大鹿という場所、歌舞伎舞台に惚れた小澤さんが、無料で、自分がやりたいからやる、お客さんは集めない、噂で来た人がお客さん、ちらしもプログラムもないコンサート。さすが小澤さん!というアバウトな企画だったらしく、こんなこと二度とないから、絶対行こうと、作戦を練りました。

 まだ免許もなく、しかも平日。大鹿村は公共の手段で行けるようなところではありません。
 そこでその噂を流してくれた、大鹿中学校の教員であったおじ(ちなみに苗字は小澤。私も旧姓は小澤)に頼み、早朝におじの家へ電車で行き、中学校までおじの車に乗せてもらい、コンサートが始まるまで、理科準備室に隠れている、という手はずとなりました。
 おじの家まで電車で1時間ほど。そこから大鹿へもかなり遠く、道も悪く、かなり車に酔いつつも何とか辿り着き、つかの間の隠れ家である理科準備室へこそこそと。そこでコンサートが始まる午後1時まで、身を隠していました。
 
 当然平日の中学校。隣の理科室では授業も行われ、休み時間ともなれば学校中が騒がしく、冷や汗ものでした。自分は学校をサボっている立場。見つかった場合、おじは教員の癖に、姪のサボリに荷担したということになり、立場を悪くしてしまうため、トイレも我慢し、コンサート開始時間を待ちました。

 そして迎えたコンサート。野外でお日様が楽器にかんかんと照りつけ、ピッチも上昇。しょっちゅう調弦、汗拭き。 しかし、その熱さも加わってかすごい熱気。

 コンサートというものにあまりなじみ出ない村の皆さんは、1つの楽章が終わることに「うおーっ」と拍手喝采。でも演奏者もにこにこ。おひねりも飛ぶのではないかというそのノリは、娯楽に対する取締りの厳しかった時代をかいくぐり、歌舞伎を演じつづけ、支えつづけてきた代々の村民の魂を感じさせました。

 コンサート自体も圧巻でした。こんな形態なので、比較しようにも、形容しようにもないのですが、きっと他の人が奇をてらっても、こんな風にはならないでしょう。巨匠というものはこういうものか、音楽って、なんてすごいんだろう、音楽に生きていくって、なんてすばらしいことなんだろうと、まだ迷っていた進路が、あとで考えると、このとき確定したような気がします。

 そして負けず劣らずすごかったのが、セミの声。ロストロポーヴィッチさんも「私たちが演奏を始めると、セミも大きく鳴きはじめる。セミも私たちと共演したがっているのだ!すばらしい!!」とおっしゃっていたとおり、演奏が終われば静まり、演奏が始まると演奏をかき消すほど大きくなって、木のそばで聴いていた人は「楽器の音はろくに聴こえなかった」とあとで言っていました。

 とまあ、こんなコンサートに参加できることはめったにない、貴重な1日でしたが、実はこの日、高校を休むことは、普段は全然平気な私でも、かなり心を痛めていました。実はちょうどこの日、卒業アルバムに載せる集合写真の撮影日だったのです。朝、学校に「体調が悪いので・・」と電話を入れ、「私にかまわず撮って下さい」と伝言。
 私が出かけた後、担任の先生から家へ電話が入り、まだ出勤前だった母が、「どうしてもおなかが痛いようで、起き上がれないので、申し訳ありません・・・」と苦し紛れに嘘をついていた、ということは知らずにいました。

 そしてまたコンサート後は理科準備室に潜み、おじの帰りを待つつもりでいたのですが、なんとラッキーなことに、このコンサートに、当時の私のピアノの先生が来ていたのです。
 事情を話し、車で高校まで送ってもらえることになり、ばんばん飛ばしてもらい、ぎりぎり写真撮影に間に合いました。
 担任の先生が「おなかはもう治ったのか?まだ顔色が悪いぞ。わざわざ写真の時間だけ無理して出てきたのか。悪かったなあ。」などとやさしい声をかけてくれたので、おなか??といぶかしく思いつつ、もう私の良心は痛みっぱなし。

・・・かなり脱線しましたが、これが私の前代未聞の自慢話です。
そして写真はお二人のサイン。いいでしょ〜〜〜♪
当時勉強中の楽譜に書いてもらいました。





(02.2.7)

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