中国東北部を起源とするダイズの歴史はきわめて古い。最初の記録は紀元前2838年の本草書にみられ、少なくとも4千年以上前には栽培化されていた。日本列島にダイズが伝来したのは弥生時代で、農耕が始まったころから栽培されてきた。ダイズの根には、空中窒素を固定する根粒菌が共生し、実にはたんぱく質が豊富に含まれている。昔から肉や魚に劣らぬ、重要なたんぱく源であった。
ダイズからつくられる食品のなかでも、重要な位置を占めるのが味噌、醤油である。もともと調味料の醤は、肉や魚を塩で漬け込んで発酵させたものであった。紀元前2世紀ころの中国で、肉や魚の代わりにダイズを発酵させた「し」(豆醤)が現われ、やがて米こうじや麦こうじとダイズを仕込む穀醤がひろまった。
日本には味噌・醤油・納豆・豆腐をはじめ、世界でも例をみないほど多彩なダイズ料理がある。これは仏教の伝来と深いつながりがある。魚食・肉食が禁忌とされた寺社では、ダイズは重要なたんぱく源であり、多くの調理法が考案された。そして、仏教が民衆の間にひろまるのと同時に、ダイズを使った料理や発酵食品による「うまみ」の食文化が浸透していった。ダイズはイネと並んで、日本の食文化に欠くことができない作物なのである。
現在、ダイズの生産量が一番多いのはアメリカで、二位アルゼンチン、三位ブラジルである。これらの国では、ほとんどがダイズ油と家畜のえさのダイズミールに加工される。BSEの発生でダイズミールの需要が急増し、アマゾンの森林がどんどんダイズ畑に変えられている。また、近年遺伝子組換えダイズの問題も話題になっている。このようにダイズは古い作物ではあるが、現代の食料事情を知り、考えることのできる基本作物である。
| 地域 |
食べ方 |
材料と調理法 |
| 中国 |
醤(ジャン) |
ダイズを蒸煮し、炒った穀粉を混ぜる。これにこうじ菌を繁殖させたあと、塩水とともに壺の中に仕込んで発酵させる |
| 乾醤(カンジャン) |
醤に似た方法でつくられるが、水分・食塩は醤より少ない。ソラマメ を原料にした豆瓣醤(トウバンジャン)やコムギだけでできた甜麺醤(ティエンミェンジャン)もある |
| し |
ダイズを蒸してうすく広げ、表面にこうじかびを繁殖させ、食塩を加えて熟成させる。日本の浜納豆、大徳寺納豆がこれに類似している |
| 豆乳・豆腐・湯葉 |
ダイズを一晩水に浸漬し、ひいたあとに加熱する。これをろ過したものが豆乳である。豆乳を原料にして豆腐がつくられるが、その起源は古く、紀元前百年頃、淮南王劉安の発明とされている |
| 乳腐 |
豆腐の表面に微生物を繁殖させてかび豆腐にする。これを乾燥した後、塩水中に漬けて熟成させる |
| 日本 |
醤油・味噌 |
味噌づくりが最初に記されているのは大宝律令(701年)であり、そのなかに醤、未醤の字がみられる。くだって1228年、僧の覧心は中国から径山寺味噌を持ち帰り、底の汁から調味液を得た。これがたまり醤油の始まりといわれている |
| 納豆 |
糸引き納豆と中国の「し」に似た唐納豆(塩辛納豆)とがある。糸引き納豆は、煮たダイズをわらつとに入れて保温する。稲わらについている納豆菌を利用していた |
| 豆腐類 |
奈良時代〜平安時代に中国から伝えられたと考えられている |
| ※その他、打ち豆、煎り大豆、きな粉、ご汁、豆乳、湯葉、モヤシ、しとぎ、煮豆、ずんだあえなど多くのダイズ食品がある |
| 朝鮮半島 |
豆醤(味噌・醤油) |
ダイズを煮て臼でよくつぶし、これを直六面体か球状に成型して数日間乾かす。室内に吊して表面にこうじ菌を繁殖させる。晩秋から春までの間にできあがったこうじを塩水でかめに仕込み、40〜50日熟成させる |
| コチュジャン |
米飯かもちを主材料にして上記豆こうじの粉末と粉トウガラシと塩水を壺に仕込み、3〜6週間熟成させる |
| チョングッジャン |
納豆に似たもので、これを食塩、ネギ、トウガラシなどと混ぜて、臼でひいたものを汁にする |
インド
ネシア |
テンペ |
煮てつぶしたダイズを成型し、バナナの皮で包装して30℃前後で発酵させる。バナナの皮に付着している微生物が働き、2〜3日で表面が白い菌糸におおわれる |
| ケチャップ |
醤油に似た調味料。煮熟したダイズを放冷し、小麦粉を混ぜた種こうじを加え、3〜4日保管後、天日乾燥。塩水に30日間浸漬し、次いでろ過。ろ液にヤシ糖、香辛料を加え、加熱、再ろ過して完成 |
| タイ |
タオチョウ |
煮熟したダイズをこうじとよく混ぜ、27〜28℃に50時間くらいおいてから食塩を加える。2週間発酵させて製品とする |
| トア・ナオ |
納豆にちかいもので、煮たダイズをバナナの皮で包み、竹簀の上に置いて室温で2日間発酵させ、ペースト状にする。これをうすいせんべい状に成型して天日乾燥する |